24 証拠がないから ページ25
乙狩くんに連れられ逃げ込んだのは、軽音部の部室だった。
安堵から棺桶を背にして床にへたり込む。今になって急に心臓が騒ぎ出した。指先が震えて止まらない。
( あぁ、嫌だなぁ。)
後悔している自分自身が何よりも嫌だ。
事実あれは氷鷹くんが責められるようなことじゃなかったし、それに反抗できたなら正しかったはずなのに。
乙狩くんは私の様子に気が付いたのか、優しく背中を擦ってくれる。
「俺は、お前の味方だ」
あぁ、また心配をかけてしまった。
「お前は勇敢だった。俺は何も言えなかった。」
違うよ。乙狩くんがそんな風に思うことじゃない。
心の中では思っていても、今はそれを言葉にすることすらできそうにない。呼吸を落ち着けながら色んなことを思考する。
…先生は、信じてくれるだろうか。
私はいい。でも、なんの罪もない氷鷹くんが私と関わっただけで目を付けられてしまったら？
活動休止にされてしまったら？
…退学になってしまったら？
そんなことばかりが頭を回り続ける。
罪悪感の文字で胸がいっぱいになる。
どうしよう。どうしたら。
「今回の件、先に手を出しそうになったのは氷鷹くんじゃからのぅ。ちと不利な立場かもしれないなぁ。」
突如背後から聞こえた声に、心底驚いて身体が動く。
咄嗟に乙狩くんは私を支えてくれたけど、つまりそれは乙狩くんに抱きつく形になる訳で。ごめんなさいと慌てて離れれば、背後からは「若いっていいのぅ」なんて呑気な声が聞こえてきた。
この喋り方、もしかしなくても…
「なにをしているんだ、朔間先輩」
朔間零先輩。
凛月くんのお兄さんだ。
「色々とお困りのようじゃのぅ…あ、話なら昨日のわんことアドニスくんの会話で大体把握しとるぞぃ♪」
…もしかして、昨日の一連の流れこの棺桶の中で聞いてたのだろうか。
無意識のうちに乙狩くんと目を合わせれば、朔間先輩は慌てて「元々は風の噂で知っていたんじゃよ」と弁解する。
「…それで、不利な立場、とは？」
アドニスくんのその質問に、朔間先輩の表情ががらりと変わった。
「簡単じゃよ。どれだけ正確に証言しようと法廷では物的証拠が絶対。…物的証拠がない限り、そう易易と信じてくれるかのぅ。」
どれだけの優等生と荒くれ者の対立でも、教師という立場上対等に見なければいけないんじゃよ。そう言った朔間先輩に、私も乙狩くんも何も返せなくなってしまう。
「ま、そう心配せずともうちの子は策士じゃからのぅ…
きっと氷鷹くんも譲ちゃんも平気じゃよ」
彼は眉を下げてクツクツと笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 416人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
