三社鼎立 12 ページ33
「行くよ敦君」
「……」
「立つんだ」
「駄目です………」
太宰さんが敦くんと視線をあわせようとしたが、敦くんはそれを拒む。涙声で返事をする敦くんは、なんだか痛々しかった。
「僕は駄目だ…。僕は居ちゃいけなかったんだッ…」
「敦君」
太宰さんが優しい声で敦くんを呼んだ。顔をあげるように頬に手をやる。次の瞬間、ぱんっと乾いた音がホームに響いた。太宰さんが敦くんの頬を叩いたのだ。
「君の過去を取り上げる権利は私にはない。だが偶には先輩らしい助言でもしよう」
太宰さんはそこで一旦間を置く。次の彼の言葉が、はっきりと私の耳にも届いた。
「自分を憐れむな。自分を憐れめば人生は終わりなき悪夢だよ」
しっかりと敦くんの目をみて太宰さんはそういった。その姿が『あの日』の時の姿と重なる。その言葉は、太宰さんの自分の経験からくる言葉なのか、はたまた自分自身に言い聞かせているのか、私には分からなかった。
―――私は、太宰さんのことも敦くんのことも、何一つ分からないままなのだ。
そんなことを考えながら、私が【私】になった『あの日』の太宰さんを、ただぼんやりと思い出していた。
「明日の新聞の一面に載るだろうね」
焼けてもはや原型かない家を遠くから見つめ、男性は楽しそうに笑った。あの後、地下から裏口へ行き、人目を避けて家の見える位置まできた。…よく笑う人だ。一応、人が死んでいるのに、不謹慎だ。
じとりと男性を睨んでいると、今度は急に真剣な顔をした。
「君の異能力は、時に人をも殺す。異能力は決して万能ではないんだ。異能力を過信しすぎると身を滅ぼすよ。今回、身をもって経験しただろう?」
「……別に過信なんてしてないわ」
「なぁに、心がけみたいなものだよ。いいか、絶対にこのことだけは忘れるなよ」
念を押して男性は言った。返事をしないでいると、返事は?と完全に男性が目を据わらせたまま聞いてくるのでしぶしぶ返事をする。
「真面目な話は苦手だ。やめやめ。楽しい話をしよう」
人差し指をあげながら男性はそこで思い出したように、嗚呼、という。
「そういえばまだ名を名乗ってなかったね。私は太宰。太宰治だ。お嬢さん、君の名前は?」
「―――志賀直哉よ」
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塩わさび - ミヤさん» コメントありがとうございます!おもしろいといっていただけるなんて光栄です…!!!頑張って更新していきたいと思います……! (2018年4月18日 23時) (レス) id: e627b6cc05 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ - 続編おめでとうございます!人間創造、とっても面白いです!これからも頑張ってください。応援しています! (2018年4月17日 21時) (レス) id: ce29b99b88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:塩わさび | 作成日時:2018年4月16日 21時