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「言いたいことだけ言って、行っちゃった......？」
恐ろしいひとが帰ってくれたことに安心したのだろう。
安堵の息をついた。
「先輩、大丈夫ですか？」
真緒が彼女のほうを見て、呼びかける。
「......えぇ、平気」
全くそうは思えないほど、弱々しく返事をする。
「あのっ、朝霧先輩！ ありがとうございました！
泉さんに言ったあのことば、とっても嬉しかったです。こう、胸からなにかが沸き上がってくるような......。
か、感動しました！」
「あぁ、あのことば......？ 別に私は自分の思ったことを言った、ただそれだけよ」
でも、ありがとう。
真のほうを向いて、ようやくいつもの調子で言った。
「あのことばはね、19〜20世紀のロシア作家、マクシム･ゴーリキーが言ったものなのよ。
素晴らしいことばよね」
泉が去っていった方向を見つめて、目を細める。
「そろそろなかに戻りましょう」
真緒と真を連れて、防音練習室の扉を閉める。
きちんと施錠し、どうにか一安心だ。
「けっきょく、泉さんって何が目的だったの？」
「さぁな、よくわからんけど。まぁ、『Knights』は『S1』には参加しないみたいだし......。
俺たちの敵じゃないはずだ、味方ともいえないけどな」
真緒が塩をまくような仕草(しぐさ)をする。
「それよりあなたたち。そんな余計なことを、気にしてる場合じゃないわよ」
美羽はいつの間にか停止していた音楽を、最初から流し始める。
どこか空虚(くうきょ)に響くアイドルソング____飛び跳ねるそれにあわせて、真緒はぐるんと回転する。
そして、すこしだけ無理をしたような、だからこそ頼もしい笑みを浮かべたのだ。
「そうですね。俺たちは、できることを精一杯に頑張ろうぜ。泣いても笑っても、『S1』は1週間後に開催される。
そこが、俺たちの正念場になる」
そして、真の背中を思いっきり叩いて気合を入れる。
「その大舞台で、お前の選んだ人生が『まちがい』なんかじゃないって証明してやろうぜ。なぁ、真？」
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「ついに明日が、『S1』本番だ」
北斗が、力強く口火を切った。
その周りには、『Trickstar』の面々と美羽が居並んでいる。
全員、過酷という表現では生ぬるい特訓の日々によって疲労が色濃く、
けれどそれ以上に自信と、希望と、充実感に充(み)ち満(み)ちている。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年8月9日 18時
