phrase８７ ページ39
･
「立場と、義理がある。表立っては、協力できねぇが。もし、おまえらがこの澱(よど)んだ夢ノ咲学院の現状に風穴をあけるつもりなら、陰ながら応援すんぞ」
いわれてみれば、【龍王戦】でも、紅郎は生徒会にすこし敵意のある眼差(まなざ)しを向けていた。
鉄虎が盛り上げていた、空手部の伝統的なドリフェス____【龍王戦】を鎮圧(ちんあつ)され台無しにされて、さすがに腹に据(す)えかねているのだろう。
けれど彼は、『紅月』だ。
世間的には、生徒会の旗頭(はたがしら)ともいえる。
微妙(びみょう)な立場のなか、それでも紅郎は侠気(おとこぎ)を見せてくれている。
それに、応えなくてはいけない、みんなが。
誰かがごくりと生唾を飲み、間近から紅郎と向き合う。
恐ろしげに見える三白眼(さんぱくがん)には、誇り高い輝きが灯(とも)っている。
「応援しかできねぇのが、不甲斐(ふがい)ねぇがな。手先は器用なつもりだが、
どうも俺は生きかたまでは器用できねぇみたいだ」
「ど、どういうことッスか？ 先輩方、生徒会と敵対するつもりッスか？」
ひとり蚊帳(かや)の外にいた鉄虎が、寂しそうに紅郎へ背後から抱きついた。
彼も生徒会に対しては思うところがあるのだろう、好戦的に拳(こぶし)を握りしめている。
「すっげ〜ッス！ 誰も真っ向から勝負を挑(いど)まない、逆らうことすらしない生徒会にドンパチやりあうつもりッスか？ かっけ〜ッス！」
何だか、妙(みょう)な誉めかたである。
「俺も、生徒会には【龍王戦】を台無しにされた怨(うら)みがあるッス！ 悔しくて悔しくて、夜も眠れないぐらいッスよ！」
それもそうだろう。
自分で企画し、司会をして、盛りあげたドリフェス......。
それを生徒会によって悪事として断罪され、台無しにされてしまったのだ。
誰よりも悔しいのが、鉄虎だろう。
「俺だけじゃない、みんなが救世主を待ってるッス！」
苦々しい情熱を、そのまま生の声として放ってくれる。
それを全身に打たれて、いつも明るくおしゃべりなスバルでさえ、眉をよせるほど。
「俺の所属する『流星隊』はリーダーの性格上、『正義』である生徒会には逆らいにくいッス！
俺だけじゃ、個人じゃ何度挑んでもボロクソに負けるし！」
鉄虎は歯噛(はが)みして、身悶(みもだ)えしている。
首輪をかけられた、肉食獣みたいに。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年2月10日 16時
