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「それと、柔軟(じゅうなん)運動をしたりな。なんの意味があるのか、皆目(かいもく)わからん」
それは実際、意味がわからないものだ。
あの双子、面白がりなところがあるようだし____北斗という玩具(おもちゃ)で、思う存分に遊んだだけなのではないだろうか。
「笑いすぎて、腹筋と表情筋が痛い。双子の仕草(しぐさ)などを見て、適当なタイミングで笑わないとくすぐられるんだ。
ほとんど、拷問(ごうもん)だった。だが、おかげでずいぶんお笑いに詳しくなったぞ」
「僕たち、たしかアイドルだったよね......？」
なぜか誇らしげな北斗に、真が遠い目をしてぼやいていた。
「うむ。そのはずなのだが、なぜか俺は基本的にお笑いの稽古をしていた。その過程で、自作の漫才もやらされたぞ」
「氷鷹くんが、漫才って......。それは想像もできないや、どんな感じなの？」
「言いたくない、忘れたい。だが、これに慣れなくてはいけないんだ」
北斗はきつく下唇を噛(か)みしめて、瘧(おこり)のように震えた。
「俺は、何度も何度も『馬鹿になれ！』と言われた。だから、俺は馬鹿になろうと......。がんはって、がんばったのに」
「もういい、いいんだ氷鷹くん。何も言わなくていい、お疲れさまだったね」
がくがくと痙攣(けいれん)する北斗を、優しく抱き寄せる真であった。
ともに地獄を乗り越えて、2人は奇妙な一体感が生じ始めていた。
それすらもAの狙いどおりなら、感服(かんぷく)するしたないのだけれど。
「氷鷹くんは、精神を抉(えぐ)られるタイプの特訓だったみたいだけど。僕は、ふつうに肉体的な特訓だったよ。もう、全身が筋肉痛」
北斗を 良い子良い子 しながら、真は自分の味わった悪夢について語る。
「基礎(きそ)体力が足りてないからって、ひたすら大神くんの竹刀(しない)でぶたれながら、筋トレとか走りこみをしたよ。あと、バンジーとか」
「......どういうことだ？」
「僕の臆病(おくびょう)な性格を矯正(きょうせい)する、という名目で屋上からバンジージャンプさせられたんだ。
何度も何度も、教師が気づいて叱(しか)りにくるまで延々(えんえん)と」
実際、バンジージャンプはどこかの国の民族がおこなっている成人の儀式____大人になるための通過儀礼(イニシエーション)がもととなっている、という話が主にいわれている。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年2月10日 16時
