思い馳せる姫君 (ページ41)

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「......」

　日が沈み、街灯のみが頼りになる帰宅路。

　そこを、Aがただ1人、ゆっくりと歩いていた。

　途中、Aは歩みを止めた。

　彼女の目線を辿ると____公園。

　彼女は、その公園へ足を踏み入れた。

　【彼】がいるかもしれない、という淡い思いを抱いて。

　しかし、真っ暗になった公園に誰かいるわけもなく、辺りは静寂だった。

「...はぁ......」

　Aはため息をつき、踵(きびす)をかえして家に向かった。

　彼女の名字は朝霧、その看板がかかった家を彼女は通りすぎ、1つ横の家の前に立つ。

____月永(つきなが)____

　そうかいてある家の呼び鈴を鳴らした。

　しばらくすると、ゆっくりと扉が開いた。

「A、さん...！きょ、今日は来ないのかと思ってました...」

　少し警戒しながら出てきた少女は、Aを見ると安堵したように可愛らしい笑みを見せた。

「遅くにごめんなさい、るかちゃん」

　少女の名前は、月永るか。

　【彼】と同じ髪の色、瞳の色。

　正真正銘【彼】の妹である。

「【彼】...レオは、今日も？」

「あ...はい......。部屋にいるのは確かなんですけど、返事もしてくれなくて...」

　【彼】____月永レオ。

　るかの兄であり、Aと同じ夢ノ咲学院の生徒だ。

「そう...。お邪魔、するわね」

「はい、どうぞっ！」

　Aはるかからの許可を得て、家の中にはいる。

　Aは玄関のすぐ傍にある部屋の扉をノックして声をかける。

「レオ、今日も来たわよ」

　“今日も”......。

　こうしてこの家を訪れるのは、彼女の日課らしい。

　Aは彼の部屋の扉に凭れかかって座り込んだ。

「前に教えたのだけれど、覚えてるかしら。新しい『ユニット』の子たちが、生徒会と戦うのよ。今の学院を変えるの。

　今日はその子たちの実力を図っててね、といっても、1人いなかったけど......」

　部屋の中にいるはずの【彼】は一言も声を発しない。

　誰も、いないようだ。

　部屋のなかで、いったい何をしているのか。

　誰にもわからないことだ。

　返答がなくとも、彼女は独り言のように今日の学院での出来事を語った。

　そんな彼女の表情は窺(うかが)えない。

　お互いの表情は、心情は、お互い解らない。

「......今日はもう帰るわ。また、来るわね」

　一通り話終わったのか、彼女は立ち上がった。