思い馳せる姫君 (ページ26)

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「けたましいのう」

　棺桶に収まったまま上体だけを起こした零を忌々しそうに睨む晃牙に、のんびりとした口調で告げた。

　零はほとんど暴れ回っている晃牙を、優雅に手招きした。

「よぉしよし、わんこや。ずいぶん放ったらかしにしとったからのう、寂しかったんじゃろ？ボールを投げて遊んでやろう♪」

　寄ってきた晃牙の頭をわしわしと撫でて言うと、晃牙はぱしっと零の手を叩(はた)いた。

「わんこって言うな！俺様は誇り高き狼なんだよ！

　つ～か寝起きから中二病キメてんじゃ____」

「可愛そうなわんこや」

　晃牙の言葉を遮り、零が言葉を被せた。

「知っておるぞ。鬼龍くんにいじめられて、尻尾巻いて逃げ帰ってきたのじゃろ？」

　ずっと棺桶の中で眠っていたというのに、なぜか外界の情報を知っている____安楽椅子探偵のように。

「あの鬼っ子は火中(かちゅう)の栗じゃ、迂闊(うかつ)に触れると大怪我をするぞい。生徒会なんぞより、よっぽど危うい。噛みつく相手を間違えたのう、わんこ？」

　寝直すつもりなのだろうか、軽く仰向けになり、両手を広げてウェルカム。

「ほぉれ、泣きべそかいておらんでこっちにおいで。優しい我輩が慰(なぐさ)めてやろう、良い子良い子してやろう...♪」

　先ほど双子に向けた笑顔とは違う、目を細めて薄笑いをする零の表情からは、晃牙に対する同情の色が読み取れた。

「ぶっ殺すぞ、テメ～！」

　ギリッと歯軋りをして零を睨み付ける。

　そんな光景を見慣れているのか、双子はまるで気にせずのほほんと語った。

「でも朔間先輩、昨日の話、もうそんなに詳しく知ってるんですね」

「相変わらずの地獄耳ですね～？」

「くくく。我輩はなんでも知っておるよ、この学院のことならなんでも」

　奇妙なことを堂々と言う彼は、さすがに鬱陶しかったのか、棺桶を蹴る晃牙の足をつかんだ。

　不健康な見た目に反して腕力があるらしく、晃牙が転倒しそうになり、慌てて飛び退いた。