知らないアンタ ページ10
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ライブを一週間後に控えた今日。
ゲストとして招かれたEveの曲をアレンジ演奏してくれる奏者を合わせての通しでのリハが行われる。
「本日は皆様、よろしくお願い致します!」
「よろしくお願いします」
舞台袖に並ぶ奏者の方々におひいさんと頭を下げて挨拶をする。
頭を上げて真っ先に目が合うのはAさん。
軽く手を振っていつものへらりとした笑みを見せられたのでこちらも軽く会釈をした。
一曲ずつ、念入りにパフォーマンスや奏者との掛け合い、転換のタイミングなどを打ち合わせていく。
おひいさんメインの曲のリハが行われてる最中、俺は軽く休憩がてら舞台袖の簡易テーブルに置かれた水分を補給して次は俺の番だと少し気合いを入れた。
「ジュンくん、何やら緊張してるね?」
「は?んなわけないじゃないっすか。…楽しみで仕方が無いですよ」
楽しみなのは、嘘ではない。
舞台袖に戻ってきたおひいさんの肩越しに見えるのは大切そうにバイオリンを抱えて目を伏せるAさんの姿。
いつもと違うのは、目を開けたあとに何かを追う視線。
そしてその視線の先にいるひとりのピアニスト。
おひいさんの曲はそのピアニストメインにアレンジされていて、今はピアニストがマネージャーとステージで打ち合わせをしていた。
先日俺の曲を自信満々に楽しげに弾いたあと見せた瞳とはまた違った熱の篭った視線。
そしてまた無理矢理上げられた口角。
少し、ほんの少しだけなぜか苛立った。
「Aさん」
「え…あぁ、ジュンちゃん。どうかしたぁ?」
「ボーッと突っ立ってないでもう俺の曲の番ですから早くスタンバイしてくださいよ」
「ん?あっ、ほんとだねぇ。ごめんごめん」
また、また無理矢理笑ってる。
俺の前でさえそんな顔すんのかよ。
無性に腹が立って思わずその頬を摘んでやった。
「いひゃっ!ちょっ、いひゃい!」
「ニヤニヤニヤニヤと…リハだからって気を抜かないでくれますかねぇ」
「ジュンちゃん、機嫌悪いねぇ?生理?」
「死んでくれ」
いつもの馬鹿みたいな冗談を抜かすAさんは涙目で睨みながら頬を擦っていた。
やっと自然な表情を見れた気がして俺は笑ってしまう。
そんな俺にAさんも言ったな、と笑った。
俺が、この人のあの笑顔の意味を知る日は来るのだろうか。
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接久(ツグ)(プロフ) - amiさん» コメントありがとうございます!引き続き読んでもらえてとても光栄です。主=変人を心がけ追い求めながら試行錯誤して書いております(笑) これからまた更新し始めましたので今後ともよろしくお願いします! (2018年9月1日 0時) (レス) id: 4b172a7e6c (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - 澪@接久さんの書く作品どれも楽しく読ませていただいております!この作品…まだ完結されてはない、ですよね? (2017年11月12日 17時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
のど飴 - とても面白かったです!!ジュンくん、尊い(´¶`)そして、夢主ちゃん奇人←これからも、頑張って下さい(´∀`)b (2017年8月21日 2時) (レス) id: 8c675f615a (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - ジュンくんが可愛いです!!更新頑張ってください!!! (2017年8月15日 21時) (レス) id: 836cda0430 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 澪@接久さんの『おひいさんと私』から来ました!前回と同じく、面白そうな話ですね!!そして、夢主ちゃんの変人っぷり(笑)次の更新を期待しています。これからも、頑張ってください。応援しています♪ (2017年8月14日 13時) (レス) id: 3e5b4b1383 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪@接久 | 作成日時:2017年8月14日 6時