少しでも救えたら ページ17
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おばさんのお葬式は亡くなった三日後に行われた。
火葬場の駐車場の隅で黒い礼服に身を包んだ彼女は煙草に火を付けて空を仰いだ。
(あぁ、また俺の知らないアンタがいる)
その横顔は泣いているようにしか見えなかった。
「いらっしゃい」
何事も無かったかのように営業を続けている店のカウンター内にはソレがまた歪んだ笑顔で立っていた。
その歪み方は以前と同じものではなく、何かが欠落したような笑顔だった。
「…誰か、来てたんすね」
いつもの席に目をやると空になったグラスが置いたままだった。
そちらには足を向けずカウンター席に腰掛けると少し困ったような顔をした後、また歪な笑みを浮かべて彼女は笑う。
「…元彼が来てた」
「そっすか」
「あの席は、彼と私の特等席だったんだよね」
懐かしむような、どこか寂しそうな遠い目をする彼女にまた苛立ってしまう。
気にせず出されたアイスコーヒーを口に含む。少し肌寒く感じるのはもう夏が終わったから。
「そんなこと聞いてないっすよ」
「それもそうだ。最近私はジュンちゃんにつまらない話しかしてないねぇ」
自嘲気味に笑って洗い物をしていた手を拭き、シンクの脇に置いていたであろう煙草を取り出して火を付けた。
吐き出された煙といかにも体に悪い匂いに思わず眉間に皺が寄る。
「…アンタ、」
「言いたいことはわかるよ?でも私だって立派な大人だし嗜みのひとつやふたつ…」
「ジュンって呼んでくれねぇんすか」
煙草のことを言われると思っていたソレは目を見開いて俺を見た。
灰がホロホロとシンクに舞って落ちていく。
「だから、もう呼び捨てはしてくれねぇんすかって聞いてるんすよ」
「いや、あの。わかってるんだけど…」
「なんか問題でもあるんすか?」
俺の言葉にさらに目を見開いた刹那、大声で笑い出した。
呼吸困難になる勢いで大笑いする店員に他の客も不思議そうにしているが、お構い無しに笑うことをやめない。
「ふふっ…くっ…あっはは!やっぱりジュンは面白いねぇ」
「それはどうも」
「は〜、可笑しいねぇ。君が友達で良かったよ本当」
涙を拭いながらまだ笑いそうになってるAさんを軽く睨むと「おっかね〜」なんて思ってもない言葉が吐き出された。
アイスコーヒーがいつもより冷たい。
「ありがとう、ジュン」
「…アンタはそうやってバカみてぇに笑ってりゃいいんすよ」
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接久(ツグ)(プロフ) - amiさん» コメントありがとうございます!引き続き読んでもらえてとても光栄です。主=変人を心がけ追い求めながら試行錯誤して書いております(笑) これからまた更新し始めましたので今後ともよろしくお願いします! (2018年9月1日 0時) (レス) id: 4b172a7e6c (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - 澪@接久さんの書く作品どれも楽しく読ませていただいております!この作品…まだ完結されてはない、ですよね? (2017年11月12日 17時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
のど飴 - とても面白かったです!!ジュンくん、尊い(´¶`)そして、夢主ちゃん奇人←これからも、頑張って下さい(´∀`)b (2017年8月21日 2時) (レス) id: 8c675f615a (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - ジュンくんが可愛いです!!更新頑張ってください!!! (2017年8月15日 21時) (レス) id: 836cda0430 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 澪@接久さんの『おひいさんと私』から来ました!前回と同じく、面白そうな話ですね!!そして、夢主ちゃんの変人っぷり(笑)次の更新を期待しています。これからも、頑張ってください。応援しています♪ (2017年8月14日 13時) (レス) id: 3e5b4b1383 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪@接久 | 作成日時:2017年8月14日 6時