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・A視点

遠くで何かが壊された様な音が聞こえた。

あの後、暫く骸砦以外に灯りの点いた建物は無いかと見回したが、其れらしいものは何も見当たらず、下に降りて骸砦の方向へと歩を進めている途中だった。
ガシャン、と機械が壊れた時の様な音が聞こえて、その音が聞こえた方向を見る。
暗くて景色はよく見えないままだったが、慥かに、何かそんな音がしたのだ。

(……誰か居るのか…?)

何らかの要因で、道具か何かが落ちただけの音なのかもしれない。
だが、調べない事には何も始まらない。若し、俺と同じ様にこの横浜を彷徨っている人がいて、怪我をしていたりしたら。
腐っても看護師。そういう人を見つけた時は、何とかするのが俺の仕事なのだから。

恐ろしくらいの静寂と、霧への不快感を断ち切る為に、俺は歩みを進める。
カツ、カツ。カツリ、カツリ、カツ、びちゃ、カツ、びちゃり。
靴音に混じって、何か粘ついた物を踏んだ様な音に気付いて、俺は足元を見る。暗くてよくは見えなかったが、何かを撒き散らされた様な、何か黒い模様が見えた。
否、違う。匂いもする。そうだ、霧への不快感が勝って気付いていなかっただけで、この匂いを俺は知っている。

「………血……」

暗くて見え辛くはあるが、この匂いは慥かに血だ。
怪我人でも居るのかと声を上げて呼び掛けようとした時、近くから何かの音が聞こえる。
ぺた、ぺたり。ぺた、ぺた。
人間にしては軽い足音に、思わず身構えた。

「……!?」

現れたのは────孔雀。
青白く発光した孔雀の額には、紅い結晶の様な物が埋め込まれていた。
孔雀というものは近づいて見るとかなり大きい。得体の知れない其れであるなら更に恐ろしく感じて、思わず後ずさる。
俺にゆっくりと近付いてくる孔雀と、ゆっくりと後退る俺。

(何だ……?此奴は…?)

孔雀の額の紅い結晶を見ると、何故だか更に頭が痛む。
痛みで一瞬動きが鈍った俺を───孔雀は当然、見逃すはずもなく、羽根を広げ、場違いにも美しく、神々しい姿で、恐ろしい速さで俺に向かって襲いかかってきた。


「─────!!」


───あ、不味い。これは───死ぬ類のやつだ。

何かに引っかかって俺は地面に尻餅をついて、目の前には孔雀が迫って来ている。
ぎゅっと目を瞑るが、衝撃は来ない。









衝撃も痛みもない。
代わりに聞こえてきたのは───何かが砕けて、欠片が落ちた様な、小さな音だった。

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『斜陽の罪人』

「たった一つくらい、ハッピーエンドがあっても構わないだろう?」


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あんこ入りのよもぎもち。(プロフ) - 好きです。面白いと言うか、綺麗なお話だと思いました。途中で泣いちゃいました。何と言うか言葉に出来ません。神作ってこう言う物を言うんだと思いました。 (2021年8月11日 4時) (レス) id: 002ae44b05 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃよかった……もっと絡みが見たい (2021年3月20日 20時) (レス) id: 7f95d97ba7 (このIDを非表示/違反報告)
6代 - 1日読み尽くして感情移入してしまいました、素敵な作品に出会えて良かったです。 (2020年11月10日 0時) (レス) id: 13ac01a0ba (このIDを非表示/違反報告)
織架 - すげぇ、好きっす。 (2020年10月7日 18時) (レス) id: 379e4fa26b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あっ…好きです。 (2020年10月3日 23時) (レス) id: 3d47931e7d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年10月14日 0時

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