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自身に来る筈の衝撃と痛みが来ない代わりに、何かが砕けて落ちた様な音が聴こえ、Aは恐る恐るといった様子で瞳を開く。
見覚えのある痩身の男が目の前に立っていた。風で靡くロシア帽。男の右手に持っているナイフが目に入った同時に、孔雀が倒れた。
音に反応してAが孔雀の方へと視線を移すと、額の紅い結晶は砕かれており、辺りに散らばっている。そして、孔雀の姿は跡形も無く消滅した。
「怪我はありませんか?」
振り向いた痩身の男が、Aに手を差し出して来る。
Aは尻餅をついた状態の為、自然と男を見上げる形となる。
何時もと服装が違うが、間違いなくこの男はAの友人であるフョードル・ドストエフスキーだった。
「……ドス君…?」
「はい。そんな不調状態で、よくここまで来ましたね。君がお人好しなのは承知の上ですが、君の身体や力はあくまで普通の人間の域を出ない。少しは自分の身を守る行動をしなさい」
不調である事を俺は云っただろうか、とAは一度思うが、霧の濃度の濃さの不快感が勝って、その思考は直ぐに打ち消される。
フョードルの手を握って、思っていたよりも強い力で立ち起こされた。
「ドス君…今のこの横浜について、何か知ってる?」
「この横浜については…そうですね。私達が首謀者側、とでも云っておきましょうか」
「…は、」
「骸砦に人間が居ることに気付いていたのでしょう。だから骸砦に向かって居る最中、あの孔雀に襲われた」
まるで今迄見ていたかの様な口振りに、Aの背筋が寒くなる。
否、屹度この男の事だ。何かの組織の頭目である事は、Aも知っていた。跡をつけていたとて何も不思議ではないと。
「却説、今の横浜は無法地帯です。君みたいな丸腰の一般人が居ては死んで終わります。
……君の身を守る程度の場所は提供しましょう。勿論、君の疑問についても答えます」
首謀者側だと先程宣ったドストエフスキーの発言が、冗談だともAは思えず、再度差し出される手を取る事を躊躇う。
だが、此処にいれば確かに先程の孔雀の様に殺されるのは目に見えた。今の横浜は無法地帯と化してるのは真実なのだろうから。
手を取りたくもないし、其れは甘言なのかもしれはい。だが、疑問についての答えを話すと言うのならば、と、Aはドストエフスキーの手を取った。
×××××
やっとこさでっぷる編に行けたので記念絵。
(http://img.u.nosv.org/item/2c0669d34c152f2d02d53a49e8234f3e/1571010448)
『斜陽の罪人』
「たった一つくらい、ハッピーエンドがあっても構わないだろう?」
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あんこ入りのよもぎもち。(プロフ) - 好きです。面白いと言うか、綺麗なお話だと思いました。途中で泣いちゃいました。何と言うか言葉に出来ません。神作ってこう言う物を言うんだと思いました。 (2021年8月11日 4時) (レス) id: 002ae44b05 (このIDを非表示/違反報告)
佐 - めっちゃよかった……もっと絡みが見たい (2021年3月20日 20時) (レス) id: 7f95d97ba7 (このIDを非表示/違反報告)
6代 - 1日読み尽くして感情移入してしまいました、素敵な作品に出会えて良かったです。 (2020年11月10日 0時) (レス) id: 13ac01a0ba (このIDを非表示/違反報告)
織架 - すげぇ、好きっす。 (2020年10月7日 18時) (レス) id: 379e4fa26b (このIDを非表示/違反報告)
銀(プロフ) - あっ…好きです。 (2020年10月3日 23時) (レス) id: 3d47931e7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遥 | 作成日時:2019年10月14日 0時