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遡る事30分前。
「私は友人を迎えに行って来ますね」とだけ告げて、骸砦を一度去ったフョードル・Dの言葉を頭の中で反芻しながら、骸砦から横浜を見下ろす太宰治は、大きな溜息を吐いた。

本当は、私が迎えに行きたかったのだけれど。といった言葉は口にしなかった。
「私と太宰君では口で言い争っても埒があかないので、此処は公平にじゃんけんで決めましょう」と、フョードルの提案に乗ったのは自分であるから、太宰は何も文句など云えなかった。
勿論御察しの通り、結果として太宰は負け、フョードルがAを迎えに行った。
……正確に云えば、保護という名目での監視だ。

太宰とフョードルの共通の友人である渡瀬Aは、自身の異能を認識していない。
情報が少な過ぎるが故に、何の異能かも未だ分からないAの異能の正体を掴む為────そして、今のこの無法地帯と化した横浜では、Aを一人にしては確実に分離した異能達に殺されてしまう為、其れも含めての事だった。

澁澤にも、勿論この事は伝えてある。
幸い、都合の良い事に、Aの異能はこの霧の中でも分離しない程に奥底に眠っている様で、適当に太宰が「君の霧でも目覚めない、只の一般人の異能、ほんの少しでも面白そうだとは思わないかい?」と言い包めた。
澁澤は然程興味無さげにしていたが、一般人であるなら脅威ではないと認識したのだろう。
其れに、異能が分離したら自身が自ら回収すれば其れで良い、といった条件で、澁澤はこの骸砦に例外として招き入れる許可を下ろした。

勿論、許可を下されたからとはいっても、マフィアや探偵社、として特務課からしたら敵の本拠地だ。
そして澁澤の性格上、Aから異能が分離したら、其処で興味を無くし、異能だけを取り込んでAを殺すだろう。

「………だから、Aの異能が分離する前に、何とかしなきゃね」

元より、Aが最近不調気味だったのは太宰は知っている。
……危ない橋を渡らせている自覚はある。だが、今の無法地帯の横浜よりも、本拠地である骸砦にて側において置く方が未だ安全だと太宰は判断した。

もう絶対に、友人は死なせはしない。



太宰は只、フョードルと、そのフョードルが連れてくるであろう、自身の友人の帰りを、ただただ、横浜を見下ろしながら待ち続けていた。

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『斜陽の罪人』

「たった一つくらい、ハッピーエンドがあっても構わないだろう?」


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あんこ入りのよもぎもち。(プロフ) - 好きです。面白いと言うか、綺麗なお話だと思いました。途中で泣いちゃいました。何と言うか言葉に出来ません。神作ってこう言う物を言うんだと思いました。 (2021年8月11日 4時) (レス) id: 002ae44b05 (このIDを非表示/違反報告)
- めっちゃよかった……もっと絡みが見たい (2021年3月20日 20時) (レス) id: 7f95d97ba7 (このIDを非表示/違反報告)
6代 - 1日読み尽くして感情移入してしまいました、素敵な作品に出会えて良かったです。 (2020年11月10日 0時) (レス) id: 13ac01a0ba (このIDを非表示/違反報告)
織架 - すげぇ、好きっす。 (2020年10月7日 18時) (レス) id: 379e4fa26b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あっ…好きです。 (2020年10月3日 23時) (レス) id: 3d47931e7d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年10月14日 0時

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