13 ページ13
その後、しばらく彼と言葉を交わすことがなくなった。
けれど、その間に私は昔抱いた感情の正解のピースを見つけてしまった。
｢はあ…やだなぁ…｣
時間軸は、現在。彼が転校してきてからひと月程経過していた。
夏休みで残り数日。暑さに耐えながら、皆、長期の休みを今か今かと心待ちにしている。
しばらく、クラスメイトと顔を合わす機会がめっきりと減ってしまう。
そう思った瞬間に浮かんだ、真後ろの男の顔。幼なじみの顔。
チクリと針で刺されたかのような痛みを感じてしまって、言いようもない感情に囚われてしまった。
机に顔を突っ伏していると、トン、と目の前に何か箱状のものが置かれる。
｢やけに沈んだ顔をしているな。悩み事か？｣
顔を上げるとそこには、絶賛私の心を乱す男の顔。
そして、机に置かれたのはいちごミルクのパック。
｢なにこれ…｣
｢お前、前にこれを飲んでただろう？前の席のやつがおもくそ暗い雰囲気纏っていたら、嫌でも気になるだろ。だから差し入れ｣
｢はあ…。ありがと…｣
前ほど、彼の周囲に人が群がることはなくなったが、その代わり密かにファンクラブのようなものが形成されていた。
だから、貴方からなにか話しかけられたりするだけで周囲の視線が痛くなるので、物をくれるという行為はやめて頂きたい。
しかし、断ってしまえばそれはそれで、癪に障ってしまうのだろうから素直に受け取り、鞄の中にしまい込む。
｢いや、今飲まんのかい｣
｢後で、ゆっくり頂きます｣
ぺこりと頭だけ下げる。
｢ああそうだ。お前、今スマホ持ってるか？｣
｢ん？あるけど…なに？｣
｢ちょっと貸せ｣
｢は？｣
急に何を言っているんだこの人。
｢スマン。じゃあ、メッセージアプリだけ起動しておいてくれ、そしたら俺に貸せ｣
それが人にものを頼む態度か、と突っ込みをぐっと堪えて言われた通りにしてからスマホを渡す。
すると、彼も自身のスマホを取り出してなにやら操作をし始める。
｢ほい。ありがと｣
返してもらったスマホの画面を見ると、そこには友達登録完了の文字。
｢これ…｣
｢俺の連絡先だ。これで夏休みになっても、連絡取れるだろ｣
｢いやいや、そうじゃなくてさ。なんで私なんですか…｣
｢せやなぁ…｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にこ† | 作成日時：2020年3月31日 10時
