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「だってそいつは、男だったからさ」
「へえ…」
違うよ。女だよ。
それは言葉に出来ず。彼の方を見ることも出来ず。
「でも、そいつはいつだったか、『男じゃないって言ったら?』って聞いてきたことがあったんだ」
「ふーん。それで?あなたはなんて答えたの?」
「俺は特別な答えは出さなかった」
「なんで?」
もしかしたら、彼の心中が聞けるかもしれない。そう思うと質問を止められなくなってしまった。
「だって俺には、そんなことどうでもよかったからな。あいつと遊べれば楽しい。他のやつみたいに気を使わなくてもいい。興味のないであろう、俺の話を黙って、時折、質問を織り交ぜてくれながら聞いてくれていた。ただそれだけで、俺にとってそいつの傍が居心地が良かったんだ」
「そう…」
私はそんな、楽しそうに話す貴方が見たかっただけだよ。
「じゃあ、なんで喧嘩なんかしたの?なんで仲直りしなかったの?」
「なんでだろうな。本当に理由はくだらなかった。ただ、くだらなさ過ぎて理由までは思い出せない。ただ、お互い意地の張り合いだったんだ」
「そう…」
もっと聞かせて欲しいと思ったところに、昼休み終了の鐘が鳴る。
「そろそ、教室に戻らんとな」
菓子パンの袋のゴミが入ったビニールを手に持って立ち上がる彼。
私も、急いで荷物をまとめる。
もう少し話を聞けていて、何かがあれば私は今も、モヤモヤとした思いを持たずに済んだのかもしれない。
いや、そもそも、この時彼と合わなければ。一緒に過ごさなければ。言葉を交わさなければ、今まで通り、何も変わらない、悩みといえば勉強が辛いだの、恋がしたいだの平凡なものだけを抱えて学生生活を満喫していたのかもしれない。
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作者名:にこ† | 作成日時:2020年3月31日 10時