俺たちの恋愛事情【黒バス】

最初の言葉 ページ26

ウィンターカップの全てが終わった。勝者への喝采と、惜しみない拍手と、少しの嗚咽と、そして笑い声

そこには青春のすべてが圧縮されていた。血と汗と涙の結晶、それを手にしたのは誠凛高校だった。今だけは祝福する、だが明日からは俺達はまた同等である

今日が終われば全てリセットされ横一列のスタートラインがまた出来上がる。鎬を削る覚悟を決めて俺はベスト4の表彰に甘んじた


最初の言葉

「崇めなさい奉りなさい傅きなさい平伏しなさい」
「この過去最高の調子の乗り方なんとかならないんスか？」
「放っておけ」
「まぁまぁ、誠凛高校優勝おめでとう」
「お前の実力じゃねーけどな」

藤巻壮お疲れ様会は深夜に開催された。皆各々の打ち上げがあり結局全員揃ったのがこの時間だったのだ。シャンメリーなんて飲みながら近所から苦情が来ない程度には盛り上がった。

久しぶりの5人である

「そういやA、伊月に呼び出されて無かったか？」
「気にしたら負けよ」
「高尾と緑間が凄い顔で見ていた気がするが……」
「気にしたら負けよ！！」

「すんません、ちょっとトイレ行ってくるッス」

アルコールは全く摂取していないが場に当てられてなんだか身体が火照った気がする。
テキトーに理由を作って席を外す。

縁側に座って夜風に当たればやはり冬は寒かった。しかし満月の美しさはそれを凌駕してしまうのだから恐ろしい

「はあ？たかがモデルの童が何ぬかしてんのよ、ジョニーデップになってから偉そうにしてくんない？」

「ハリウッドと比べてきやがったこの女！」

初めて顔を合わせた夜も、こんな月だった気がする。第一印象は最悪だったような、今思えば笑えてくるような……



「キセ」

後ろから声を掛けられて肩がはねたのは考えていた人物がその場に来たから

「Aさん」

心臓とは相反して、ビックリするほど優しい声が出た。

「……ったく、なんて顔してんのよ」

恐らく顔付きもそれと同様だろう

目を逸らすAさんは俺の隣に腰掛けると同じように月を見上げた

「月、綺麗ッスね」

何気なくそう答えると今度はAさんが肩を跳ねさせた

「アンタ、夏目漱石がアイラブユーをなんて訳したか知ってる？」

突拍子もない質問

「さあ、知らないっス」
「あっそ」

適当にそう答えるとAさんはふぅと一息ついて肩の力を抜いていた
そんなAさんに笑いかける。

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