＊ ページ41
何も言えなくなって、口をぱくぱくさせる私。
(お父、さん？)
確かに彼は村長さんのことを「父さん」と呼んだ。
その事実が指すのは、たったひとつだけ。
彼のお父さんはこの村の村長さんで、彼は村長の息子だということ。
……知らなかった。
いや、もしかしたら覚えていなかっただけなのかもしれないけど。
私の前で頭を下げるうらたくんを、私は呆然として見つめる。
「……その方がどのような方かを理解した上で、お前はそんなことを口にしているのか？」
その声の冷たさに、身の毛がよだった。
村長さんがうらたくんを見据える目は真っ直ぐで、ずっしりと重い。
「あぁ。……王族、花吹家の一人娘。華月国の、たったひとり、唯一の姫君」
「……ならばーー」
「けど、それ以前に」
なにか言おうとした村長さんを遮って、うらたくんは力強く言葉を発した。
その瞳が、村長さんの冷たい目にも負けない熱を帯びているように見えて、私は息を呑む。
「Aは俺らの友達で、親友で……大切な、人、だから」
村長さんが、一瞬身じろぐ。
初めて見せた目に分かる動揺を、うらたくんは見逃さなかった。
ぐ、と語調を強めて、彼はーー言い切る。
「大切な人が苦しんでるのを見捨てるほど、薄情な男になった覚えはない」
ーーまた、瞳から生暖かいものが流れかけた。
いけない。
本当に泣いてばっかりだ、私。
溢れそうな涙を必死でこらえて、溜まった涙を着物の袖で拭って、私は前を向き続ける。
「だから、頼む。……父さん」
ぴゅう、と吹き抜ける夏風も、明るく差し込む陽光も、全てが背を押してくれているようで。
再び頭を下げたうらたくんと同じように、私も頭を下げた。
背後の気配も動いて、頼もしくなって。
少しの間が、空いた。
「……はぁ」
そんな溜息が響いたのは、体感数十秒後。
ば、と持ち上げた視線に、身を翻した村長さんが映った。
「村の不利益になる場合、すぐに姫様諸共追放する。……それでも構わないと言うのならば好きにしろ」
「……じゃあ」
「大切な人ならば、自分の力で護れ」
ーーそう言って歩き出す村長さんの背中が、滲む。
一層強い風が頬を撫で、遂に私は瞳から雫を落とした。
「ありがとう、ございます……！」
誰よりも、うらたくんよりも早く、大きく、感謝の言葉が口から飛び出す。
村長さんは、その声に立ち止まった。
「……随分と、ご立派になられた」
その頬は、微かに微笑んでいた気がする。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 598人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - 更新が止まってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2020年7月11日 23時) (
レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください！ (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい！更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！ (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星奈 ふゆ | 作成日時：2019年7月21日 16時
