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ぽんぽんと頭を撫でてくれる坂田くんに身を委ね、私は身体の力を抜く。

はぁ、と吐き出した深い息が、溶けるように熱気の中に消えていった。


「A、大丈夫? 立てる?……やっぱり、しんどい?」


労わるような声が耳元で響く。

身体に響かないように、囁くような声で話してくれているのだろうか。


「……足枷さえ、取れたら」


私が発した「足枷」の単語に、坂田くんは分かりやすく反応した。

ばっと身体を離し、私の足に視線をやる。

素足に繋がれた、重たい鉄の塊。
私の足を絆す、冷徹なお父様の愛情。

坂田くんの表情が歪んで、その大きな手が足枷に触れた。


「まーしぃの持ってる鍵で……」


何かぼそりと呟いた坂田くんが、振り返って叫ぶ。


「まーしぃ! 足枷の鍵持ってへん!?」


誰かに問いかけるような叫び。

まーしぃ。

これもまた、聞いたことがある。


「あー!? 足枷ぇ? そんなん試してみんと分からへんわ!」

「っ、というか、坂田お前、足速すぎじゃね……?」

「さすが体力馬鹿……」


その叫びに答えたのは、暗闇を縫って現れたもうひとつのーーいや、三つの人影。

分かる、覚えてる。

崩れていた記憶の欠片が、次々と結ばれて。

ぽろぽろと、枯れたと思っていた涙が瞳から溢れ、頬を伝った。


「……みん、な」


私の呟きに気付いたひとりが、その瞳を揺らがせ、私の元に足を踏み出す。

揺らぐのは、黄玉の瞳。
まるで琥珀のような、透き通った黄色の瞳。


「A……です、よね」


坂田くんと同じように、その美しい金髪と白い肌は煤で汚れていた。

それでも彼は、これ以上ないくらいに美しくて。


「……A、だよ。センラ、くん」


私の元に腰を下ろした青年ーーセンラくんは、その手を私の頬に伸ばし。

壊れ物でも扱うかのように、柔らかく撫でた。


「久しぶり、ですね」


ふわりと、その端正な顔に浮かべられる、慈愛に満ちた笑顔。

その笑顔に、私の顔にも自然と笑みが浮かんだ。


「ほら、お前ら! 感動の再会もいいけどとりあえずここ出るぞ! どこかの馬鹿が放った火が燃え広がってる!」


そんな私の耳に届いたのは、凛と張られた声。
心地よい低音が、じんわりと鼓膜に響く。

センラくんが頬から手を離し、立ち上がるのを眺めていると。

足に絡み付いていた冷たい重みが、ふっと離れていくのを感じる。


足枷が、外れたーー。

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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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