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「え……?」


幻聴だろう。
そう思った。

だって、私のことを名前で呼ぶ人なんて、お父様くらいしか身の回りにはいない。

この状況だ。
幻聴が聞こえたっておかしくない。

いよいよ限界か、なんて、他人事のように思ってしまう。

ーーけれど、そうじゃなくて。


「っ、うらさん、おった! あそこ! 廊下の突き当たり!」

「座敷牢かっ……センラ! 鍵は!?」

「ちゃんと兵から拝借して志麻くんに預けましたよ!」

「おう! ちゃんと持ってるで! ほれ坂田ぁ!」


ばたばたという足音と、賑やかな話し声。

うらさん? 志麻くん? 坂田? センラ?

どこかで、聞いたことのある名前。


(……どこで聞いたんだっけ)


駄目だ、ぼんやりした頭ではどうしても思い出せない。

それに、そろそろ熱に耐えられそうにない。

ふら、と身体が横倒れになる。

畳に叩き付けられた身体が、ピクリとも動かなくなって。

あぁ、もう死ぬんだなぁ、と、直感的に思ったーー


ーーけど。

神様は、不思議なところで予想を裏返してくるもので。

ガチャリ、と、ずっと開かなかった座敷牢の柵が……開いた。


「……っ、Aっ!」


駆け寄り、私の傍に座り込んだひとりの青年。

ぼやける視界に映る、(すす)で汚れたふわふわさらさらの真っ赤な髪。
それにも負けない真紅色のぱっちりとした瞳。
髪と同じく煤に汚された、白い肌。

不思議だ。

あんなに曖昧で霞んでいた記憶も、こうして目の前に現れたら、こんなにもはっきりと蘇る。

ーー覚えてる。

覚えてる、私、あなたのこと。


「……さ、かた、くん……?」


途切れ途切れに彼のーー坂田くんの名前を呼べば、坂田くんは泣きそうに顔を歪ませ、ぎゅうっと私を抱き締める。


「Aっ……よかった、っ…」


変わらない。

不安なことがあれば、こうして私に縋ってくれるところも。

私のことを、本当に大切に思ってくれるところも。

変わってない。

……坂田くんだ。

十数年前の、坂田くんだ。


「……ふふ、さかたくん、だぁ」


彼の存在に、ふわりと笑みが零れる。

笑う気力なんてなかったはずなのに。

今は、どうしてこんなにも笑いたいのだろう。

*→←肆/一夜の騒動



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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