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「じゃあ、文化祭の劇はロミオとジュリエットでいい?」
「はーい」
──私が化学準備室に行かなくなって、もう1ヶ月。季節は刻々と流れ、文化祭が近付いてきた。
私のクラスは劇をやることになったらしいが、正直そんなのに興味のない私は空を眺めていた。
(……楽な仕事がいいな……役じゃなくて大道具とか……)
うるさい教室の音をBGMに、私はぼんやりとそんなことを考える。だって今は、クラスで一致団結していいもの作ろう!なんて青春脳にはなれないんだもん。
……先生が、応援してくれるって言うなら別だけど。
なんて、そんなことある筈ないのに考えてしまう私は馬鹿だ。あれから1ヶ月も経っているのに、まだ引き摺って、落ち込んで。
はぁ、とため息をついていると、誰かからいきなり肩をとん、と叩かれた。
「おい、くじ引いてこんでええの?」
肩を叩いてきたのは志麻で。くじってなんのこと?と聞けば、お前話聞いてなかったのかよ、と呆れて。
「さっきから役が全然決まんねえから、主役2人だけでもくじで決めることになってんねん」
「……へえ……そんなに皆やる気ないの?」
「一番やる気なさそうなやつがそんなこと言うん?」
とにかく、早く引いてこいよ、と言って男子のくじの方に行った志麻の背中を少し見つめた後、私も重い腰をあげて女子のくじの方へ向かう。
(……さすがに私じゃないでしょ、何分の一の確率よ)
適当に引いてさっさと座って空でも眺めよう。そんなことを思いながら、箱の中に入った紙切れを一枚取って開くと。そこには赤いペンで二重丸が書かれていて。
「あ、Aが主役くじ引いたー!」
「……えっ」
「えっ、じゃないよ!頑張ってね、“ジュリエット”!」
友達に背中をバシバシと叩かれながらそう言われ、私は何度も瞬きを繰り返す。でも、手に持ったくじは何度見ても二重丸が書かれていて。
(……嘘でしょ)
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