10-14.決勝前夜 ページ14
剣城くんは私の言葉にしっかりと頷いたあと、私の肩に手を置いた。
「一人で戦おうとするな」
＿＿私はハッとした。決勝戦は私ひとりだけの試合ではない。勝ちたいのはみんな同じだ。
「ご、ごめん。そうだよね……みんな一緒に戦うんだし……」
そう言うと、剣城くんはおかしそうに少しだけ口の端を上げた。どういう反応だ。私は何か的外れなことを言っているのだろうか。
「サッカーもだが、それ以外でも」
「え？」
サッカー以外、とは何のことを指しているのだろう。言葉の意味がわからず首を傾げる。
「それ以外……？」
察しの悪い人だと思われているだろうか。こわごわと聞いてみると、剣城くんは目元を和らげた。
「何でもいい。何でも一人で頑張ろうとするな」
私に向けられている剣城くんの視線が、あまりにも優しくて、いたたまれなくなって「うん」とそそくさと返事をして俯いた。
何だか、今の剣城くんは剣城くんらしくない。私の知らない彼の表情が次々と現れて、受け止めるのに時間がかかってしまう。
もうすっかり夜と呼べる時間帯だ。そろそろ帰って準備をしないと、明日に響いてしまうだろう。
私は立ち上がって、ジャージについた汚れを軽く払った。剣城くんも立って、軽く伸びをしている。
「遅くまでごめん……」
「構わない。送っていく」
「えっ。でも、悪いよ」
「いい。俺が好きでやってるんだ」
「そ……っか」
またも発せられた彼らしくない言葉に一瞬たじろぐと、剣城くんは意味ありげな笑みを浮かべた。思わず「え」とこぼした私の左手を、剣城くんが掴んで歩き出した。
「えっ、つ、つるぎ、くん」
辺りは暗くて、彼の表情はよく見えない。
ただ、振りほどこうと思えばすぐにできてしまうほどに、優しく繋がれた手から彼の体温が伝わってきて、私は自分の手がずいぶん冷えていたことに気付いた。
夜の稲妻町は静かで、まるで眠っているみたいだった。今日まで、何度この堤防を歩いただろう。何度河川敷でボールを蹴っただろう。明日はそのすべての成果が表れる日だ。
悔いの残らないように＿＿いいや。
後悔したくなければ、勝つしかない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 144人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
春間(プロフ) - 匿名２号さん» コメントありがとうございます！ 面白いと言っていただけでとても嬉しいです。別作もよろしくお願いいたします！ (2022年3月25日 14時) (
レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
匿名２号(プロフ) - 面白くて時間を忘れて読んでました。必殺技の描写や試合運びなどわかりやすく表現されていてすごく参考になりました。ツインブースト打つくだりの話が特に好きです。素晴らしい作品をありがとうございました。アンソロの方も読みましたので別作も読んできます。 (2022年3月25日 8時) (レス) @page41 id: a481d4b51d (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - むすぶさん» コメントありがとうございます！ 楽しんでいただけて何よりです。嬉しいお言葉、励みになります！ (2021年8月31日 10時) (レス) id: 65d4199637 (このIDを非表示/違反報告)
むすぶ(プロフ) - はじめまして。とてもとてもとても面白くて、最初から一気読みしました！この小説に出会えて本当に良かったです。続編のご予定は無いとのことですが、夢主ちゃんとサッカー部や剣城とのその後が読んでみたかったです…春間さんの小説をこれからも楽しみにしています…！ (2021年8月25日 19時) (レス) id: c2d0a2f182 (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - mayaさん» コメントありがとうございます！ お褒めいただき光栄です。今後を読んでみたいというお言葉、とても嬉しいのですが、続編の予定はございません。申し訳ありません;; (2021年7月4日 16時) (レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春間 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/april_hrm
作成日時：2021年3月14日 19時
