240メートルの誤算4【佐野玲於】

救われた ページ7

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もう1時になりそうだった。
明日も仕事なのに。

「…大丈夫？」
「……。」
「元カノのこと思い出しちゃった？」
「…なんかもう…やめたい、もうAはたぶん、俺のことなんか忘れてんのに。」
「……Aちゃんっていうの。」
「……うん。…会いたいな、何してっかな、今頃…寝てるか。…寝てるよ、多分。」


缶ビール一本なんかじゃ、酔わないはずなのに
何やってんだよ俺は

寝てんじゃねーよ
起きろバカ
会いにきてって、いつも言ってたのはお前だろ
電話くれたらすぐ行くのに
今すぐ、走って行くのに


「大丈夫だよ玲於くん、ほら飲もう！元気出して〜」
「…うるせえ。」
「あは、そんな怒られるほどうるさくしてないよ。」
「……。」
「ねね、この牛タン美味しすぎるから食べて。ほら、」
「……うま。」
「でしょ？コンビニもバカにできないね。」
「元からしてない。」
「あは、ほんと？」


気休めの役を引き受けたつもりが
逆に助けられてしまった。
情けないな。

俺がこれ以上落ち込まないように、無理に笑ってくれる。
その姿見て、俺も気合い入れ直した。


「ごめん、くよくよすんのやめるわ。」
「えー、いいんだよくよくよしても。一回落ち込まなきゃ次にいけないし。」
「……。」
「玲於くん、わたしのことここに連れてきてくれたじゃない。わたしも愚痴きくくらいならできるから、恩返しのつもりで！」


返す言葉が見つからない。
この子は、すごく強いし、その強さを分けてくれる。
なんか、なんだろな
久々に、こんな救われた気分。

Aと別れてからずっと、泥沼に沈んでる感覚だったから。
初めて息を吸えた。
あろうことか、苦手だと思ってたさくらちゃんのおかげで。


「…俺も、愚痴きくわ。彼氏の。」
「うわ〜すっごい嬉しいそれ。山ほどある！」
「山ほどはキツいな。」
「なんでよ聞いてよ。笑」
「さくらちゃん話長そうだし。」
「えぇ？」
「できるだけ手短に。」
「なんかひどくない？笑」


恋愛の話ができる女友達って、今までいなかった。

メンタルやられてる俺にとって
重すぎる話をしても笑い飛ばしてくれる子がいることは、気持ち的にめちゃくちゃありがたくて。


結局その日は、明け方まで語り尽くした。
4時を過ぎてようやく、彼氏のとこ戻るって部屋を出てったさくらちゃん。

数十分後に、もう彼氏の機嫌直ってたってラインが届いて

[ よかった。また話そ ]

こんな返事をしたのは
紛れもなく、俺が弱かったから。


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