240メートルの誤算4【佐野玲於】

気休め ページ5

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どういうわけか薄着で手ぶらのさくらちゃん。
俺んちのソファーにちょこんて座ってる。

…参ったな。
連れてきたはいいものの、どうすればいいか分からない。
あんまり詳しく聞くのもアレだし
このまま泊まらせるのは絶対避けたい。

とりあえず部屋着に着替え、何か飲み物でも…って思ったけど、最近やる気のない生活をしてたせいで何もなくて

「…あの、水しか無いんすけど。」
「あ、いいよ大丈夫、気にしないで。」
「いらない？」
「うん、喉乾いてないから。」

そっか、って また手持ち無沙汰な俺。
そんな俺に気付いたのか
さくらちゃんは、小さな声で話し始めた。

「…ごめんね、彼氏のとこ帰りづらくて。」
「…なんで？」
「……喧嘩…喧嘩？うーん、難しいな。」
「……怒られた？」
「…ていうよりは、怒らせた、って感じ。」

いつになく落ち込んだ表情。
みんなでメシ食ってるときと別人みたい。
さくらちゃん、気強い子だって思ってたけど、案外そうでも無い？

「彼氏にね、ずっと別れたいって言ってたんだけどね、」
「うん。」
「全然受け入れてくれないし、むしろもっと束縛キツくなっちゃって。」
「えぇ…」
「今日、久々に別れ話切り出したら、怒られちゃった。出てけって言われて、体ひとつで飛び出しちゃって。でも寒くて帰れないし、お金もないし、…もう最悪。」
「…金貸すよ、タクシー呼んで、」
「ううん、どうせスマホも彼氏の家だし。戻らないと。」
「…あー…」
「……。」
「……大変っすね。」
「…え？他人事過ぎない？笑」


そう言って、へらへら笑う。
その横顔見てたら、なんか、こっちまで苦しくなった。
だってこのひと、無理に笑ってる。
その感じ、俺すげー苦手なんだけど

でも、俺が彼氏のとこに直談判しに行くとか
ましてや今日泊まってく？って甘やかしたりとか
そんなことする気はさらさら無くて
俺のこの立場って、たぶん気休めだから


「…つーかさ、仮にも彼氏いるくせに、俺にラインしてこないでよ。」
「あ、あは、ごめん。」
「この前飲んでるときもさあ、ヘンに目合わせてきたりしたしさあ。」
「ごめんって！ついクセでやっちゃうの！」
「クセなの？あれが？それやばくないっすか。」
「ほんとやばいよね、自分が一番わかってる…」
「マジでやめたほうがいい。」
「え、えぇー…そんな真顔で言わなくても…」
「いやその感じ全然反省してないじゃん。笑」


ソファー、隣に座った。
いつもの香水の匂いがした。


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