240メートルの誤算4【佐野玲於】

コーヒー ページ14

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「待って、え？何してんの？」
「ごめん、ほんと…めいわく…」
「いやそういうのじゃなくて、」

そばにしゃがみ込んで、顔覗いた。
泣いたみたいな跡があって、化粧もボロボロ。
とにかくここじゃまずいから入って、って
身体支えながら立ち上がり、鍵を開けた。

さくらちゃんの手、すげー冷たくて
…いつからここにいた？
リビングの時計はもう、2時を指している。


「待ってすぐ暖房いれる。」
「いいの、ごめん大丈夫、」
「大丈夫なとこいっこもない。」
「ほんとにごめん。」
「ごめんじゃなくてさ…」

超特急でコーヒー入れて、マグに入れて差し出した。
飲めって言うと、うなずいたあと一口飲んで

「…あったかい…」
「…手冷たすぎる、いつからいた？」
「わかんない…20時とか…」
「……嘘でしょ？」
「…21時だったかな。」

…ありえねえ。
3月末とはいえ、まだ夜は寒いのに。
ようやく暖房が効き始めたころ、さくらちゃんは少しずつ話してくれて


「…昨日からね、彼氏のとこに泊まってて。」
「うん。」
「今日、わたしも彼氏もちょうど仕事休みで、向こうは、ほんと、何ヶ月ぶりの休みで。」
「うん。」
「でも、まあ、外なんて迂闊に行けないし、家でね、映画見たり、お昼寝したり、してて。」
「うん。」
「…夜ご飯食べ終わったあと、彼氏が突然、やっぱり別れようかって。」

さくらちゃんの声が震えてた。
俺はどうしたらいいかわかんなくて、うん、って答えるだけ。

「…今までずっと別れたいって思ってたし、本人にも言ってきたのに、なんかいざこうなると…」
「…うん。」
「……わがまますぎる自分もすごく嫌だし、何より、なんで今日、あのタイミングだったのかなあとか。」
「…うん。」
「…いろいろ、考えて。」


俺には、彼氏の気持ちが手にとるようにわかった。
何ヶ月ぶりの休みが、偶然彼女と被ったのに
外に連れてってやれないし、特別なことなんて何も、何もしてやれない。
…俺じゃなかったら、って
考えちゃったんだろうな。

でも、これをさくらちゃんに伝えてどうなる？
ずっと別れたいって言ってたのに。
こんな形でも、ようやく別れられたのに。
これ伝えたら、さくらちゃんが苦しくなるだけなんじゃないか。

さくらちゃん自身、自分がこんなに大事にされてるってこと、気付いてないから。


また泣き始めてしまったさくらちゃんを見て
自分の無力さに、悔しくなった。
たくさん救ってもらったのに
俺は何も返せない。



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