240メートルの誤算4【佐野玲於】

確実に ページ12

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『でも玲於くんちょっと女々しすぎだよ。』

その日の深夜
2時を回ったころ。
厳しいさくらちゃんと電話。また怒られる。

「女々しいって…」
『別れて2ヶ月経ってるんだよね？さすがにもう諦めなよ。』
「いやわかってんだって。」
『わかってないよ。勿体ない、時間も、気持ちも。』
「じゃあそっちだってさっさと別れろよ。」
『いま頑張ってるとこじゃん！』
「うわうるさ…デカい声出さないでもらえます？」

いっつもこんな調子で。
思わず笑ってしまう。
なんでこいつがあの人気俳優と付き合えてんの？
意味不明だわ、まあ面白くはあるけどさ。

『もー、そんな言うならさ、彼氏に直談判しに行ってよ。』
「は？笑」
『さくらは俺と付き合ってるんで！とかさ、カッコいいこと言えないの？』
「ドラマの見過ぎでしょ、それ。」
『ホント玲於くんって、顔に似合わず男気ないよね。』
「いや俺が一般人だったら可能性あった。」
『あ〜』
「…なんか最近、一般人だったらなあって思うことばっかだわ。」
『なんで？わたしテレビ出てる玲於くんカッコよくて好きだよ。』

さらっと、そんなこと言われて。
返事に困った。
そんなの、言われたことなかったから。

『あは、なに？照れた？』
「…バカ、ちげえよ。」
『でもほんとだよ。前も言ったよね。玲於くんが仕事頑張ってるのみんな知ってるし、それだけでわたしたちにはプラスの影響があるって。』
「……。」
『だから、もっと頑張れって言いたいわけじゃなくてね。玲於くんはいまの仕事がすごく合ってるし、悔やんだりしてるなら、それ勿体ないよってこと！』


Aは、俺の仕事が嫌いだった。
たぶん俺らがすれ違い始めたのは、そこからだ。
Aのために必死で頑張っていたことを
あろうことか、本人から否定されて
それ以来誤魔化しながらやってきたけど、心の奥ではやっぱり、自信を無くした部分があって。

その崩れ落ちた部分は、もう一生取り戻せないって
そう、思っていたけど


「…なんか自信ついた。」
『うん、大丈夫大丈夫。玲於くんは偉いよ。』
「…ふふ、子ども扱いすんなよ。」
『え！？子どもじゃん…』
「お前さあ、」


心が、本来の形を取り戻していく。
ゆっくり、だけど確実に。


ひとりでも過ごせる時間を、あえて誰かと過ごす。
ひとりでもいいのに、ふたりでいる。
そこにいる相手は、誰でもいいわけじゃない。

さくらちゃんと話してる時間は、苦痛じゃなかった。


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