雨 ページ19
.
一寸先で立ち尽くした私は、ハッとして足を動かす 。
今日は一段と酷い夕立だ。
傘に穴が開きそうな位重々しい雨粒。
「帽子さん!」
もう一度名前を呼んで駆け寄った。
そんな中雨に打たれていては風邪をひいてしまう。
それでも、帽子さんはこちらを見なかった
陰鬱げに俯いて、一頻り、重々しい瞳で地面を見つめている。
「…どうしたんですか!濡れ_____」
それでも私は、その空気を払って傘を差し伸べた。
_____のが、鬱陶しかったのか
「_____ぼ、うし、さ…」
手を払われ、傘が落ちた。
差し伸べた傘は悲しく、落ちても尚、いつもの雨音を奏でていた。
いつしか頭を撫でてくれた黒い手は、冷たく、恐ろしく私を拒絶して
声が出ない
手が震えた。
いつもより低い声で、帽子さんは続ける
「もう俺は此処には来れない」
どうして、
とは、云えなかった。
喉で突っ変えて出てこなかった。
冷たい雨が全てを冷やし、私の心ごと冷凍庫に閉じ込めたみたいだ。
私が「どうしたんですか」なんて聞いたから?
それとも、何で、どうして……
どうして、今日の雨はこんなにも悲しげなの
「帽、し……さ」
雨音に紛れて声を出す。
声が出ているかも定かじゃなくて。
帽子さんは立ち上がると、私を一瞬________悲しそうに眺めて、背中を向けた。
突き放すような声色なのに、態度なのに、声と瞳は泣きそうで。
どうして、どうして?
その、思いだけが胸を締め付け喉を占拠する
それでも何も聞けないのは、私達がそういう関係だったから。
他人が踏み込める領域ではない事を、承知していたから。
雨に打たれて歩く背中は、まだ、手の届く範囲なのに
私は手を伸ばせずに、
ただひたすら、それを見詰めているだけ
止みやしない雨が二人の間に幾つもの線を作って
止みやしない雨が、私の声を攫っていく
「帽…子、さん、…何で、ですか?」
声は届かない。
私にはもう、雨音しか聞こえない。
もう振り返って、手も振ってくれない。
笑顔も、見せてくれない。
落ちた傘は拾えなかった
それから何時間雨に打たれただろうか。
自分の涙もわからなくなる位、雨は私の頬を拭ってくれた。髪も服も靴も鞄も全部、全部、何もかもよくなるくらいに、雨は私を濡らしてくれた。
まるであの時のようだ。
状況は真反対なのに、条件は同じだ。
ああ、でも
もう帽子さんは、私の前には居ないんだっけな。
390人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ