曇り ページ21
.
ーーー私は、雨が好きだ。
「____よっしゃー!逮捕じゃ逮捕!待ってろよマフィアー!!!」
「……日外君、矢張り静かな方が善かったです」
「とか何とか云っちゃって、安吾先輩、まるで親の様に心配してたじゃないっすか」
颯爽と任務用の武装車に乗り込んだAを横目に、坂口安吾と部下の女は対局的な表情で世話話をこぼしあっていた。
「Aは確かに
能天気だし若いし経験も少ないし……なにより、デリケートなんですよ」
「ほらまたでた。それッスよ、安吾先輩の母親目線」
「……はあ。日外君が子供過ぎるだけです」
実は坂口は部下の発言にぐうの音も出なかったのだが、それらしい理由を見つけては恰も至極当然と云う様に続けて。
そのまま静かに溜息を吐き________不安定な空を見詰めた
「あと、単純に莫迦なだけでしょうけど」
「____んもう!何やってるんですか!早く行きましょうよー!!」
「判っていますよ。少しは体力を温存したらどうですか」
私の声が煩い、と耳を抑えながら
漸く話が済んだのか、安吾さんは何時もの嫌味を並べながら車へと乗り込んだ。
けれどその嫌味も今じゃあ愛嬌にしか感じない。
最早私にとってそれは挨拶の様でも有るからして、全くと云って善い程その嫌味に効力はない。
えへへと笑ってから、適当に返事を返して笑ってやった
「呉々も注意する様に」
「ふふ、はいはーい」
幾度も乗った戦闘用車に背を預け、発射したとともに動き出す景色を眺めるべく、車窓を見詰めた。
何ら変わらないヨコハマの景色が何故だか遠くに感じるのは、空に敷き詰められて居るのが灰だからだろうか。
湿ったい空気を感じて思わず鼻から吸い上げ堪能してしまうのも、その天気特有の癖だろうか。
けれどもう、それも今日でお別れだ。
何となしに垂れ流されているラヂヲから、私へと、二人の饒舌な会話が何かを示す様に謳っている。
『今日で漸くこの陰鬱な気分から解放されますねえ』
『そうですね。気象庁は確実だと断言していられるという事ですが、皆様引き続き夕立には十分ご注意下さいね』
ーー梅雨が開ける。
何て爽快な言葉なのだろう、と思いながら空を見詰めた。
そして次に自らの手を見詰め、ぼんやりと頭を溶かしながら空気を握った。
“異能力”
私の力で天気が変えられるのであれば。そう何度願った事か。
今回の任務で打つける私の“異能力”は、何とも単純明快で、厄介なものである。
390人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ