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ザクッザクッ


貴「………あ、洗うの忘れちゃった…。でも剥くから良いか」


今日はりんごのパイを作ろうと、りんごを切っている

そうやって切っていって、ふと自分の手首が目に入った

………切ったら、痛いわよね

…でも何かで、自分を傷つけることで、血を見ることで安堵することがあるなんて見た気がする

……そういう人たちがいる、だったかしら

忘れてしまった

……………。


貴「ッ……思ったよりも…痛くないわね」


サク、サクッ

自分の左手首を2回ほど傷つける

激痛が走るわけでも、全く痛くないわけでもない
程よい痛み

ああ、私って存在してるんだなって分かる、痛み

トロトロと流れる血が溜まりを作っていく

私の中にはあの男の血が流れている

あの乱暴で理不尽で自分勝手な男の…

そう思うと、酷く憎く感じた

………こんなのが流れている私が、堪らなく嫌だ

…嫌だ

流れないで

私の中に穢れたものが流れている

気持ちが悪い

消えてほしい

消えろ、消えろ

もう嫌だ

私を包丁を振り上げて、勢いよく左手首に突き刺そうとした

でもそれは他の手によって阻まれてしまった


灰「何やってんだよ‼バカじゃねぇの⁈」

貴「…………祥吾…」

灰「何でこんな…とりあえず止血するから、」

貴「…貴方は、良いわよね……可愛がられて育って…不自由なく育って…。きっと中学を卒業してもこんな風にひた隠しにされることなんてないのよね」

灰「…姉ちゃん」

貴「羨ましい………私も愛されてみたかった…」

灰「………とりあえず止血すんぞ。…あーあ、りんごがダメになってる」

貴「祥吾……祥吾…苦しい…。目の前がくらくらする…気持ち悪い…」

灰「貧血だ。こんなに血ぃ流してたら貧血になるだろ、姉ちゃんなら」

貴「…………私の中にあの男の血が流れてると思ったら、嫌で堪らなくなって…気持ちが悪くて…」

灰「…薬、飲んでないんだろ。きちんと飲まないと良くならないぞ」

貴「ごめんなさい…………」

灰「……今日来て、良かった。あのままだったら手首切り落としただろ」

貴「そうかもしれない…ごめんなさい、祥吾………ごめんなさい…」

灰「…大丈夫だから」

貴「………………ごめん、なさい……」

灰「……姉ちゃん、そんなに謝るなよ」

貴「………苦しい…」

灰「上行って薬飲んで寝ろよ。な?」

貴「ん…」

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作者名:碧夜叉 | 作成日時:2018年12月13日 6時

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