第拾漆話『追憶』 ページ22
＊＊
記憶の何処にも、産みの親との記憶はなかった。気づけば、人が行き交う街に蹲っていて皆が私を見ないように通り過ぎていく。
(さむいし、おなか、すいた……しぬのかな、わたし)
漠然とそう思った。本能で、何かしらの危険を感じ取ったのだろう。
「おい、そこの餓鬼。生きてるか？親は？歳は？」
『……しらない』
少し荒い口調に俯きながら、返事をする。
(うるさいこえ……さっさとどっかいけ)
汚い物を見るような人々の冷たい視線を思い出して、目の前の人間に悪態をつく。なのに、
「捨て子で、歳は5歳くらいか……なぁ、お前」
その人は何処にも行かなかった。柔らかい声と同時に体に伝う冷たさが無くなり、驚いて顔をあげる。
「俺と来るか？」
傘を差し出したその人は笑っていた。不思議な錯覚が起きる。周りは雨が降っていたのに、此処には太陽が昇ったのだと。
＊
そうして、私は名前も知らない男の人に拾われた。手を引かれ連れてこられたのは、小さい一軒家。
1人で住んでいるのだろうか、ぼんやりする頭の中でそう思った。家の中に入ると、灯りが付いておらず他の人の気配もない。でも不思議と、
「あ"！お前の服、どーしよ」
寒いとは思わなった。隣で自分の服を引っ張り出してきて、破いたのは流石に驚いたけど。
「俺は向日葵。お前は？」
開きかけた口は、自分に名乗る名前が無いことを思い出して閉じた。そんな私を見て察したのか、向日と名乗った男が屈んだ。黄色の瞳が私を見つめる。
「よし！お前の名前は、四橙Aだ」
『しとう……？』
「おう！四に橙と書いてしとう!!俺は、橙色が好きだからな!!」
黄色の瞳を細めて、男は笑った。男の羽織は、橙色に白色の花が咲いている。その眩しさから目を逸らして、下を向く。
『……どうして、わたしをひろったの』
非力な腕では、労働も限界がある。料理も出来ない。この男には悪いが、役にも立たないごみをお前は拾ったのだと教えた。
男は無言になると、立ち上がり奥に歩いていった。今からでも遅くない。私を殺すのだろう。戻ってきた男の手に何か握られていると気づき目を瞑る。
「理由なんてねーよ。ただ、独りは寂しいだろうが」
殴られなかった。それどころか、柔らかい布に包まれる。布の隙間から見えた男は、やっぱり笑っていて
『……へんなひと』
屋根があるのに、雨は降っていないのに、私の頬に冷たい雫が伝った。
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (
レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います！ (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして！お話面白かったです！更新頑張ってください！ (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです！夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ！完結おめでとうございます！！とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました（笑）今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちょこもち | 作成日時：2020年3月18日 17時
