Tennis match No.5 ページ6
「…お前用のトレーニングを組んでやる」
「有難う御座います。…私はこれで。宜しくお願いします、コーチ」
彼の視線は未だ私にぶつかっていて、結構居心地が悪い。ついでに他の高校生の視線も刺さる。そんなに見られていると感じると何だか居た堪れないからさっさともう一人のコーチの元に行こう。
残り、三船入道コーチは…脱落者を鍛え直している裏のコーチで…調べた内容が正しいのであれば責任者であるとか。挨拶ばかりはしなければならないと思ったし、言われたし。すっぽかす理由は無い。ただ調べていた話だとどうにもまたこれも取っ付きにくいと感じた印象だから、覚悟はしなくちゃいけない。私は16面コートから離れ、裏山へと向かう。舗装されていない山道を登るより、岩壁をよじ登る方が早い様な。
「…よし」
深呼吸を一つ。岩肌に手を掛けて、ゆっくりと登る。特に時間制限は設けられていないからこそ自分のペースで登って行ける。勿論、服装としては崖登りになんて適しているものじゃないから、あちこちが傷物にはなりそうだけど登る事に今は意味があると何故だか、思えたんだ。
特に靴の選び方を間違えた気はする。舗装された道路ばかりを歩く様な靴だったから。とにかく無理をした気はあった、とも感じた節はあれど登りながら考えられる事なんてたかが知れているんだから、思案する事自体を放棄して目の前の岩肌のどこに足を掛けるかを悩んでいた。
一番上の岩肌、平らな地面の様な部分に手が引っ掛かればもう後は私のもので。そこを軸に身体を上へと持ち上げて登り切ってしまう。膝を一度地面へと落として、息を整える。辺りは木が多くて迷いがちな場所だがよく見れば人が往来した形跡のある小さな獣道があった。迷わずそこへ足を向けて行く。木の枝やら草を掻い潜ったり地面を這う木の根を跨いだりとやはり体力を使う。乱れそうになる息を整える様に上を見上げたら、そこもまた生い茂る木の葉だらけ。新緑色の奥に覗いた日の光が煌めいた。すると、表情を緩めた瞬間を狙ったみたく怒号が響き渡った。思わず肩を竦めるも寧ろそれは目印になる訳で、その声を頼りに分岐しまくった獣道を進んだ。
視界良好では無いにしろ、見えた光景は不思議で。白の無地のシャツを着た高校生達を目の前にして酒の入ったひょうたんを片手に叫ぶ大人の姿。見た通りというか調べた通りの姿だからすぐに分かった。またも他の高校生達の視線を集めてしまうと感じて、気はとても進まなかった。
Tennis match No.6→←Tennis match No.4
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 84人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
唯(プロフ) - 初コメント失礼します....! 入江奏多先輩好きなので、思わず舞い上がりました！ 素敵な作品をありがとうございます(*^^*) 長文失礼しましたorz (2018年1月19日 19時) (
レス) id: f51638b8bc (このIDを非表示/違反報告)
ミリイ(灰崎信者)(プロフ) - 原哲也(ハラテツ)の小説も書いて欲しいです (2017年12月7日 22時) (レス) id: 99fc6b4eef (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：藍梓 | 作成日時：2017年12月7日 22時
