第二話 忘却の異能 ページ26
「……申し訳無いが、君の事が思い出せない。犯人に人質にされていたのは判るが…事件の関係者か?」
───息が詰まった。一瞬だけ、息の仕方を忘れた。そうか。忘れられてしまったのか。
『……否、大丈夫です。どうせ私の事について覚えていても意味が無いので……唯の特務課の下っ端ですよ。』
『忘れていたのが辻村先輩で無くて良かった。私は特務課に戻らせていただきます……報告書はよろしくお願いしますね。』
「……ああ。判った。」
私はその言葉を背にし、外へ向かった。
嘘をついているのは判っただろうが、それを引き止める理由も無いのも明白だ。
──私を忘れているのは綾辻先生だけだろうか。私は、急いで特務課へと向かった。
まるで四年前に戻ったみたいに、カメラを無人のループ映像にして、安吾の元へ行く。
『……やあ。安吾。』
「!?」
安吾は驚いた。
「またAさんですか……一体何のようです?」
私はそれをみて酷く安心する。
凡ての人間から忘れられていたら、信用を取り戻すのにどこまで時間がかかるか判らないからだ。
『異能を私に使われた。綾辻先生から私の記憶は失われている。』
「……貴方に異能は効かないはずでは?」
『私は触れると異能無効化が出来るが、間接的では無理だ。太宰程万能では無い。』
そう溜息を吐くと、安吾は納得する。
「……成程。綾辻先生に異能無効化では解除出来ないのですか?」
『今回異能を使われたの私に対してだ。意味が無い。』
なら、私に異能無効化を使えばいい。と思うかもしれないが、
太宰に触れられた異能無効化は、私の異能無効化も作動してしまう。この瞬間はお互いが何の異能も持たない人になるだけで、既に使用されている異能には干渉されない。
例えば、私に中原中也が重力操作をする。
それを解除するために太宰が私に異能無効化をすると、私の異能無効化が作動する。
つまり、この2人は非異能者になり、太宰が私に触れている間だけ太宰も重力操作を受け、一切無効化は発動しない。
では綾辻先生の異能はどうして無効化出来たのか?あれは間接的では無く、私に直接作用するものだ。
これは、実際にポートマフィアに属していた際に試していた事だった。そして、この話は安吾も知っている。
「……それは、つまり…。」
『……矢張り、そうだろうな。』
安吾の表情を見て、改めて状態を理解した。
『───最悪だ。』
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