＃1 ふたりの時間 ページ3
◈紫月side◈
夢ノ咲学院に来て2度目の春。
3年生になった私は、新しくできたESのプロデューサーになった。
環境も大きく変わり、自分が学生だということも忘れそうなくらい毎日忙しい。
紫月「(…今日はこれくらいにしよう…外真っ暗…)」
気づけばあっという間に夜。
遅くなりすぎると天祥院先輩に怒られる。
急いで荷物をまとめて外に出ると、人影が見えた。
真緒「…あ、紫月！お疲れ。」
紫月「真緒、くん…」
彼は春からES近くの男子寮に住んでいる。
…だから、自宅から通っている私を送ってくれることに申し訳ない気持ちがあった。
紫月「…送らなくていいって、言ってるのに…」
真緒「こんな時間にひとりで帰るなんて危ないだろ。ほら、行こうぜ。」
でも正直に言うと、この帰る時くらいしかふたりになることがなくて。
申し訳ない気持ちと、少しだけ嬉しい気持ちが複雑に混ざっていた。
真緒「……でさ、それがすごく面白くて……」
たった数分の帰り道。
他愛もない、今日あったことを話し合うこの時間が楽しくて、好きになった。
でも、楽しい時間ほど短く感じて…すぐに私の住むマンションに着いてしまう。
紫月「(…もう着いた…)」
真緒「…紫月、あのさ…」
紫月「…？」
彼は私を真っ直ぐ見つめて、手を握られる。
急にどうしたんだろう。
真緒「…紫月は、送るの大変だって遠慮するけど…俺が好きでしてることだし、気にしないでほしい。」
紫月「…うん。」
真緒「それに…俺この時間好きだから。」
紫月「(…あ…)」
そっか…真緒くんも、私と同じことを考えてたんだ。
胸の奥がきゅっとして、私はその手を握り返した。
紫月「…送ってくれて…あ、ありがと…」
真緒「ん、それじゃ…」
名残惜しい気持ちを隠して、そっと手を離す。
すると、離した彼の手が私の頭を撫でた。
優しくて、くすぐったい感じもして…安心する。
紫月「…な、なに…？」
真緒「紫月ってさ、頭撫でられるの好き？」
紫月「…そんな、こと…ない。」
子どもみたいって思われたくなくて嘘をつく。
本当は嬉しいのに、また素直になれない。
真緒くんは見透かしたように「そっか」と笑って、撫でるのを止めた。
真緒「また明日な。おやすみ。」
紫月「…うん。帰り気をつけて…おやすみ。」
手を振って彼を見送る。
しばらく撫でられた感覚が頭から離れなかった。
紫月「…もっと、素直に…なりたいのに…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：紫鶴 | 作成日時：2021年8月4日 15時
