決定権 ページ27
マンションのエントランス、
壁に片手をついて俯いている。
トレンチコートは着崩れていて
襟元が歪んでいる。
額にかかる前髪が乱れている。
そんな翔くんを数秒観察する。
少しは悪いと思ってるのね、当然だけど。
私の気配に気付いて顔を上げた時の
弾けたような笑顔に胸がきゅんと鳴った。
彼の気持ちを信じて疑わなかった頃、
だから必死で隣の席を確保していた頃、
私に向いていた純粋な好意を思い出して。
私たちを隔てているガラスの自動扉が開く。
ゆっくり近づくのは、表情の変化を見逃さないため。
騙されるとは思っていないけれど、
取り繕う位のことはあるだろうから。
「やっと来てくれた、ありがとう、A。
えっと、ごめん、ふざけ過ぎたよな、俺。
Aと会えて嬉しかったからさ、
ちょっと調子に乗った。馬鹿だよな」
「そうね」
翔くんは、また自嘲気味に笑う。
「Aと話したいと思ってるのは、本当。
だけど今は、とにかくバッグを返すよ。
わざわざ降りて来てくれてありがとう。
顔を見せてくれただけで充分嬉しい。
面倒かけてすまなかった」
私と話したいと言い顔を見て嬉しいと言う、
思いがけない姿に戸惑って、仄かな期待。
自分の気持ちの変化に呆れるようで、
でもやっぱり受け入れてしまうのも
私らしい間抜けな感じ、仕方ないかな。
「確かに面倒だったわ、翔くんらしくない。
話したいことがあるなら、言えば良いのに。
バッグを奪うなんてことしなくたって、
私、ちゃんと聞くわ。はい、どうぞ」
受け入れる私に、更に安心した翔くんは
さすが、諦めない男だった。
全く挫ける様子は見せなかった。
「じゃあさ、腹も減ってることだし
夕飯に蕎麦でもどう？
近くに結構美味い蕎麦屋があるんだよね、
A、知ってる？」
一見、私に決定権を委ねるようでいて
ちゃっかりリードして思うように進めて
結局、夕飯も一緒に食べることになった。
こういう翔くんらしさ、嫌いじゃないのよ。
だから、困る。
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おはな(プロフ) - mayuさん» mayuさん、楽しみと言って頂けることに安堵しました。そうですよね、素っ気なく離れて行った彼、また近づいてきた彼の真意を書かなくては。時間がかかってしまいそうですけど、またmayuさんに来て頂けるようがんばりますね。 (2021年2月2日 20時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - さる子さん» さる子さん、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいです。テンポよく更新できていた頃の感覚がなくて、愚痴の様なコメントを残してしまいました。彼の真意に辿りつくまで、しっかり書いていきますね。ありがとうございました。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、少しペースは落ちているところ、コメントを頂きありがとうございます。彼の行動の一つ一つに意味があり狙いがあり、気持ちがあるのはもちろんです。それを何とかお話に乗せられるよう頑張りますね。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - おはなさんの書くお話、言葉も、繊細な心の動きも丁寧に書かれていて、面白いです。翔くんは一体どうしたいのか続きが楽しみです！ (2021年1月31日 9時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
さる子(プロフ) - ぜんぜん！がっかりなんて！楽しみにお待ちしておりました。おはなさんのペースで更新してけだされば。彼の真意を想像しながらまっていますので。更新に感謝です。 (2021年1月31日 2時) (レス) id: eb4a575f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2020年12月25日 23時
