明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ28)

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238.WITHDRAWAL。ページ28

「櫻井さん」
「はいはい？」
「あの...お疲れ様でした」
「フハッ！お疲れぃ」

彼はやっぱりキューッて眉毛を下げて、可笑しそうに笑う。

「大阪にはいつ戻るんですか？」
「あー、明後日。それまでにもしかすると、桜また覗きに行くかもしんない」

櫻井さんが業務連絡的にそれを言うと、繋いでる二宮くんの手にグゥって力が入った。

「じゃ、俺そろそろ行くわ」
「はい。あ！静香さんによろしくお伝えください」
「ん、了解」

じゃあな、って櫻井さんが軽く手を挙げたから

それが合図のように、私は車から離れて後ろに立ってた二宮くんの隣に並んだ。

プワッて軽いクラクションと共に去って行く車を、繋いでない方の手を振って見送る。

二宮くんが、私の振ってる手をわざわざ遠くにある方の手で押さえて振れないようにする。

そして、車がまだ見えてる内に私を引っ張ってエントランスに入った。

「何なんだよ、帰って来んなよ！フザけんなよ、結局帰って来んのかよ！」

ブツブツ、独り言みたいに呟いてる。

「...二宮くん？」

エレベーターのボタンをダンダンッ！って2回強めに押して

やって来たその箱に、私をグイッと引っ張って乗り込んだ。

2階のボタンは押してくれなくて、5階に直行。

そのまま、私は屋上に連れて行かれてベンチに座らされ
ポイッとブランケットを投げられたから、それを受け取って膝に掛けた。

隣にドスッと二宮くんが座る。

「...二宮くんも、掛ける？」

ブランケットの端っこを彼に差し出してみたけど、無反応。

「やっぱダメだ」

代わりに、そんな言葉が返って来た。

「ダメ...って？」
「オトコは無意識に本能でオンナを探してるっつったろ！？」
「櫻井さんはそんな人じゃ...」
「A、お前ホントにバカ。マジで油断できねぇし」
「.....」

怒ってんの？って思ってたのに、こっちを見た二宮くんは

あまりにも、切ない顔をしてて

「撤回する」

低い声で、ポツリ。

「聞かなかった事にして、っての聞かなかった事にして」

何を言ってるのか、よく分かんなくて

頭の中で何回も、その言葉を繰り返す。

「...え？」
「聞かなかった事なんかに、しないでよ」
「.....え？え、何...」

分かんねぇの！？って、ちょっと苛立ったように言った二宮くんが

「『好き』って言ったら、面倒くさい事にもっと好きになった」

差し出したまんまになってたブランケットの端っこを摘んで、私をジッと見た。