234.横顔。 ページ24
ちょっと混んで来て智さんも忙しそうだったから、早めに店を出た。
「あー、マジで旨かった。智くん、通販してくんないかな」
あ、でも材料送られても作れねぇわ！って、櫻井さんは満足したらしいお腹を擦りながら笑ってる。
「さてと。桜、戻ろうかな」
「あ...はい」
「雅紀の清算と日報、抜き打ちチェックしてやろ」
「フフッ、指導してあげて下さい」
もう少し、話したかったな...と思った。
きっと、『櫻井さんが帰って来る』って予告されてたら私はあんな事話そう、こんな事話そうって考えてただろうから、このアッサリしたバイバイがもっと寂しかったのかもしれない。
「じゃ、ちょっとAも一緒に桜来てくんない？」
「...え？何で...」
「良いから良いから」
よく分からないまま、また桜へと二人で引き返す。
そして、桜に着くとそのまま駐車場へ向かう櫻井さん。
従業員用の駐車スペースに、知らない車が一台。
「こっちの宿泊費バカになんないから、実家に泊まってんだけどちょっと遠いんだよね」
「そうなんですか」
「うん。だから、親父の車借りて本社行ってた」
「あぁ、あの車ですか？」
「そ」
櫻井さんが車に近付きながら、手元のキーでピッとロックを外す。
「あの...」
「送るわ。乗って？」
私の返事も待たずに、櫻井さんは助手席のドアを開けて待ってる。
「あ...一人で帰れま...」
「何の遠慮だよ。もー若者が変な気を使うなって！」
朗らかに笑って「早く」って、私を手招いた。
「じゃあ...お言葉に甘えて」
櫻井さんが開けてくれてる助手席に乗り込もうとして、ふと思う。
「あの、櫻井さん」
「んー？」
「...静香さん、嫌がりませんか...？自分以外を助手席に乗せて...」
「大丈夫、もう先に言ってある。A、乗せるかもしんないって。Aなら全然嫌じゃないって言ってた」
少しだけ、胸がズキンとしたのは
まだ失恋の傷が、完全には癒えてなかったからなのかな。
「ほら、何の心配も無いだろ？ウソだと思うなら、静香に確認とってくれても良いよ？」
「フフッ、信用してますから大丈夫です」
「親父の車だから、ちょっとオヤジ臭いけど」
「そんな事無いですよー」
櫻井さんの車じゃなくって、良かったと思った。
あの車だと、色んな事を思い出してしまいそうだから。
「では、行きますか」
「はい、お願いします」
運転する横顔は、出来るだけ見ないようにした。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2015年10月23日 16時
