明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ23)

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233.行き先。ページ23

着替えて店の外に出ると、煙草を吸い終えたのか櫻井さんが壁に凭れて夜空を見上げながら立ってた。

「星でも見えますか？」
「おっ、ハハッ。見えないな」
「大阪では見えますか？」
「んー...見えない、だろうな。あんま空なんて見上げてないわ」

私も暗い空を見上げてみる。

何も見えない真っ黒の空は時々、このまま何もかも全部を吸い込んで行くんじゃないか...なんて思ってしまう怖さがある。

「あ...、そう言えば何かお話ですか？」
「あっ、そうだった」

二人して倒してた首を起こして、顔を見合わせる。

「智くんトコ、行かね？」
「三十四ですか？」
「うん。もうさ、禁断症状！やっぱ麻薬入ってんだよ、あそこのラーメン」
「フフッ、はい。良いですよ。お付き合いします」

よっしゃ！って小さくガッツポーズしてる櫻井さんを、やっぱり可愛い人だなとは思う。

三十四に入ると、智さんが目を真ん丸にして櫻井さんを見て、私を見て

もう一回櫻井さんを見て

「翔くん！」

そう笑って、また私を見た。

「Aちゃん、こんばんは」
「はい。こんばんは」

智さんは何も言わないけど、大丈夫？って言われてる気がしたから

一歩下がって櫻井さんからは見えないように、小さく頷くと智さんも頷いた。

久し振りの三十四ラーメンを「うまっ！」って美味しそうに食べる櫻井さんの横顔は、懐かしくて胸がギュっとなる。

「あ...外すの忘れてた」って曇った眼鏡を苦笑いしながら外す姿は、何だかもう、どこまでこの人は櫻井さんらしいんだろうって思う。

「やっぱ智くんのラーメンが一番旨いわ」
「えー？おれのが？大阪って美味しい物多いでしょ」
「多いけどー、旨いラーメンもいっぱいあんだけどー」
「食い倒れだもんねぇ」
「食い倒れるけどさぁ」
「やっぱり食い倒れてるんだね。翔くんちょっと太ったね」

アハッ、って犬歯を見せて可愛く笑った智さんが可愛くない爆弾を落とす。

「...それ...言わないで...」
「良いと思うよ？ほら、貫録？貫録がついた」
「マジかよ、嬉しくないよ...よし、ダイエットだ！」

今、カロリーのバケモン食べたばっかりの櫻井さんが決意したらしい。

それを横目に、「智さん、プリンくーださい」ってカウンターに会員証を出したら

「何っ！？会員証！？」

櫻井さんがグイって近付いて来て、肩と肩が結構な勢いで当たった。

思わず、櫻井さんを見たら

「あ、すまん」なんて、微笑まれた。