明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ17)

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227.鐘の音。ページ17

洋館をそのまま使ったカフェは雑誌で見た事あったけど、実際に来るのはまた違う。

思わずキョロキョロしてたら、二宮くんもキョロキョロしてて

目が合った瞬間に、ブッとお互い吹き出してしまった。

「A、ホントにカフェ好きなんだな」

コーヒーを飲みながら、二宮くんが言う。

「好きなのもあるけど...」
「けど？」
「...将来、カフェを開きたいってゆーか...あ！分かってるよ！？開業なんて大変だって！経営の勉強なんて何もしてないし...ホントもう、無謀だよね。恥ずかしい」

ハハッ、って笑ってごまかす。

「何が恥ずかしいの？」
「...え？」
「夢なんでしょ？あ、目標か」
「...えっと...」
「目標持って生きてる人間なんて、意外と少ないの。やりたいコトがある自分を恥じるのは違う。誇りこそ持って良いべきよ」

まただ...また、胸の奥がギュウ...って縮む。

「この辺って、暗くなったらライトアップするんだって」

二宮くんが、窓の外を眺めた。

「そうなんだ...綺麗だろうね」
「見て帰るでしょ？」
「......うん」

ずっと苦しい。

胸が、苦しい。

カフェで時間を潰して辺りが暗くなった頃、外に出る。

大きな時計台のある洋館の周りに人が集まる。

「ここの鐘が鳴ったら点灯するらしいよ」

暫くすると、響き渡る鐘の音。

ゴーン...と低いけど透き通った音が、6回

鳴り終わったと同時に、辺りの洋館が一斉に淡い光に包まれた。

街中の華やかなライトアップとは違う、オレンジ色一色の素朴で暖かい光。

「A」
「......」
「ンフフ、すっげぇ綺麗だな」
「...うん...」

チラっとこっちを見た二宮くんが、ポスポスと私の頭を撫でた。

暫くその景色を見た後、二宮くんはカメラを構えてシャッターを切る。

そのシャッター音が、心に刺さるような染みこんで来る様な...何だかもう、よく分からない。

小高い丘の上、坂道の多いこの街。

夜になって、ライトアップされてると言っても淡い光だから足元も見辛くなった。

「大丈夫？こけない？A、どん臭いからなー」
「ご心配無くー。二宮くんこそ大丈夫なの？」

いつも通りの憎まれ口の言い合い。

なのに

「大丈夫じゃないかも。オレがこけそうになったら助けてよ」

なんて笑って、手を繋いで来る貴方に

もう、自分を騙す事なんて出来ないよ...。

胸がずっと苦しいのは、気付いてしまったから。

認めたくないのに、認めなきゃ辛い位に

想いが膨らんでしまったから。