明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ10)

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185.大人の嗜み。ページ10

「マジ、鼻血出たらどーすんだよ」
「どうせ鼻血が出たってイケメンだけどーとか言うんでしょ？」
「まぁそーだけどさぁ。あ、鼻血すらアクセサリーみたい！とかなる？」
「ならない」
「あ、っそ」

二宮くんが鼻を押さえてた手を離して、私の隣に座って

多分初めて会った時にも着てた、ちょっとオーバーサイズのパーカーのポケットから缶ビールを二つ出した。

「ほれ」
「ビール？」
「ジュースに見える？」
「お団子にビール？」
「文句言うなら飲むな」

ヒョイっと缶を頭の上まで挙げて、意地悪な顔。

「嘘ですぅ、飲ませてくだせぇ」
「フハッ！バッカだねー」

両手を合わせてヘコヘコしたら、二宮くんはケラケラ笑いながらビールを私の膝の上に置いた。

「うわー！ありがてぇありがてぇ」
「ンフフ。お前、さっきからそれ何キャラだよ」
「しもじもの民衆」
「じゃあ、オレは殿様だな」

プルタブを開けると、小さくプシュっと音がして泡がブクブクと溢れ出す。
慌てて飲み口に口を添えて、それを吸い取ると「乾杯もまだなのに」ってジトーっと睨まれた。

「あっ！まだ飲んでない！泡はビールに含まれません！」
「含まれるわ！」
「カンパーイ！」
「無視か！」

構わず二宮くんの持ってる缶に自分の缶をコツンとぶつけて、グビグビ。

「うまーい！」
「オッサンかよ」
「五臓六腑に沁み渡るねぇ」

仕事後にタダで飲むビール程、美味しい物は無い！

チラリと隣を見ると、萌え袖になった両手で缶を包み込んだ二宮くんがビールを飲んでる。
その姿は完全にオッサン化してる私より、女子力高くってとりあえず私も両手で缶を持ってみた。

「良い？」
「え？」

暫く飲んでると、二宮くんが突然私に問い掛けたから「何が？」って訊くと

ソフトケースの煙草と100円ライターを、私に見せる。

「うん、良いよ」
「うちでは吸えないんだよね。クロ居るから」
「あ、そっか」
「じゃ、失礼」

薄い唇に煙草を挟んで、眉を顰めて煙たそうに火を点ける。

幼い二宮くんが、妙に大人っぽく男っぽく見える。

吐き出された紫煙が、暗い空に昇って行く。

「なぁ、A」
「んー？」
「ここ、オレの秘密基地っつったろ？」
「うん」

二宮くんが、こっちを向いた。

「雅紀も知んないんだよ、ここ」
「...え？」
「お前しか、知んないの。教えたの、お前が初めて」

それだけ言うと、彼は目をキュっと細めてまた煙草を唇に咥えて空を見上げた。