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指の腹でいまいちしっくりこないAの名前をそっとなぞる、妹にしたい人部門第一位だった。頭では彼女らしいなと思いながらも実際は妙な興奮状態に陥っていた、Aが存在していた、生きていた証拠が思わぬところに落ちていた。彼女はこのことを覚えているだろうか、そしてラビや神田はこの紙面上にしか存在していないこの名前を、斎藤Aという人間が確かに生きていたことをハッキリと明瞭に記憶に焼き付けているのだろうか。
「知ってる人?」
「……ええ、委員会が一緒で」
「ああ! 妹にしたい人部門一位かぁ、可愛い人なんだろうなぁ」
考えるより先に言葉が口をついて出た。嘘をついた。しかし本当のことを言っても信じてもらえるか分からない上に一から全部話すのは時間と労力がいることを考えて、結局何も言わないことにした。アレンは黙々と集計をしながら物思いに耽っていく。きっとAはもうここにはいない、彼女の言う通りここは本来彼女が自由気ままに彷徨い暮らしていた場所だった。それもアレンと出逢うまでの話でありアレンと過ごすようになってからは家で留守番することが多く、学校に来る機会もめっきり減っていた。
ふ、と考える。最初にAの話をしていたラビや神田はともかく、何か引き金になることがなければAは皆の記憶抜け落ちていってしまうのだろうか。月日が経っていつかはラビも、神田も、自分も、Aを忘れてしまうのだろうか。彼女が見えなくなったら次第に記憶が薄れてしまうような気がして寂しい気持ちになる。えもいえぬ焦燥感に急かされて帰ってすぐにAにそのことを報告した。
「覚えてます?」
「……う〜ん、あー……あ〜? あぁー!!」
左右に頭を降ったり眉根を寄せたり百面相するAを見ていたアレンは思わず吹き出す。ウンウン唸って漸く彼女は閃いたらしかった。
「覚えてる! 一年の時、名前呼ばれてる!」
「斎藤A、それがきみの名前。忘れないで」
「うん、わすれない、忘れないよ」
「なんでこんなに大事なこと忘れてたんだろう」Aは俯きほろほろと不透明な涙を零していた、忘れたくない、誰にも忘れて欲しくない、強くずっと記憶に刻まれていたい。不思議な感覚がAを支配している、誰の記憶にも残らないのは怖かった。ソファにいるクロスが鼻で笑ったような気がした。
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月夜弥(プロフ) - かがりさん» はい!暑いので熱中症には気を付けてくださいね! (2018年5月19日 11時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
かがり(プロフ) - 月夜弥さん» 初めまして、暖かいコメントありがとうございます! これからもゆるりと更新しますので、しばらくお付き合い下さい! (2018年5月19日 9時) (レス) id: d3d904e778 (このIDを非表示/違反報告)
月夜弥(プロフ) - アレン君まじ尊い…天使ですか!?とっても可愛いです!このお話大好きです! (2018年5月13日 22時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かがり | 作成日時:2018年3月30日 18時