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夜が炎に呑まれていた。真っ赤な炎がゆらりと、舐めるように家を這う。燃え盛る火を前にAはしばらく呆然と立ち尽くしていた。映画やドラマでしか見たことのないようなありえない現状を突きつけられてAははじめてこれは現実、紛れもないリアルなのだと理解する。恐怖で竦む足に自身に五感はないと言い聞かせるとスルスルと壁を通り抜けて中へ入った。これが緊急事態でなければAは中に入るのを渋っていたが焦燥感がそれを紛らわせた。そして都合のいい身体と闇に包まれた辺りのお陰で気持ちの悪い背徳感に苛まれることもなかった。こんなに大きな火事なのに周りに人の気配がまるでない、不自然なほど静かだ。Aがたまたま通ったこの場所は町の離れにある高級住宅街だった。普段ならこんなところに来ることは絶対にないが、先程見た光景のショックを和らげようと家を飛び出してきたら自分でも知らないうちにかなりの距離を浮遊して来てしまったらしい。その突き当たりに位置する一際大きな家が燃えていることに近隣住民はまだ気付かない。室内や廊下を駆け回りながら広すぎるのも問題だなと思った。
――カランカラン、
はっとして滑るように音の出処に向かう。轟々と燃える部屋と立ち込める煙で視界は最悪だったがそこに突如現れた似つかわしくないラッセルの音を聞き逃さなかったAは縋るような思いだった。鈴を転がしたようなラッセルの音がまだ響いている。ここは子供部屋だったのか、もうそんな形跡すら残っていないほど焼き尽くされた部屋の隅に人影を見つけて駆け寄る。
焼け焦げて倒れた柱の下敷きになっている小さな手を掴んだ。否、掴めないとわかっていても本能的に手を伸ばしていた。必死だった。おねがい、おねがい、かみさま。ここにいるよ、誰か助けて。何度手を伸ばしても結果は小さな手を通り抜けるだけに過ぎない、辛うじて聞こえた呼吸は周りの騒音に掻き消されて今にも消えそうだった。だめだ、わたしじゃ全然だめだ。まだ息があるのに助けられないのが悔しくてどうしようもなく自分に腹が立つ。
「ここだ! ここに人がいるぞ!」
轟音、喧騒、衝撃、一瞬の内に起こったことが多すぎて処理しきれない。部屋に入って来たのは救助隊員だった。
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月夜弥(プロフ) - かがりさん» はい!暑いので熱中症には気を付けてくださいね! (2018年5月19日 11時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
かがり(プロフ) - 月夜弥さん» 初めまして、暖かいコメントありがとうございます! これからもゆるりと更新しますので、しばらくお付き合い下さい! (2018年5月19日 9時) (レス) id: d3d904e778 (このIDを非表示/違反報告)
月夜弥(プロフ) - アレン君まじ尊い…天使ですか!?とっても可愛いです!このお話大好きです! (2018年5月13日 22時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かがり | 作成日時:2018年3月30日 18時