温いだけでは孵れない ページ23
酒臭いと思った。実際にはAが酒臭いと感じた訳ではなく、アレンの表情を見てそう理解したのだがそれも束の間だった。何かが体に触れたという事実に驚きリアルな感覚を味わったと思った次の瞬間には、世界がまっしろに塗り替えられていた。突然の出来事に熱くなったのか冷たくなったのかわからない。目が見えなくなったのかと焦ったが、ただ白一面があるだけで落ち着いて考えてみると咄嗟にかざした手が見えた。何もない、何も聞こえない恐怖はじわりじわりと這いずるようにAを支配した。たったひとつ、Aとこの世を繋いでいたものが遮断されることほど恐ろしいものはない。この時初めて自分の膝が震えていることを知った。
「聞こえないよ。どこにいるの? アレン」
不安で堪らないと震えるAをさっきの男がバカにして笑っているような気がした。左右上下が白で塗りたくられた世界は酷く寂れていて、このままここにいては気が狂ってしまいそうだ。実際は息もしていないのに深呼吸をしてみる。大きな波紋が鎮まるようだった。愛しい人の名前を呼ぶだけでこんなにも心が落ち着くことを、Aは初めて知った。
・・・
「彼女はどこですか」
真っ先に異変に気付いたアレンが師であり親である彼に問うたのはAのことだった。予想外に冷たくぶっきらぼうな態度だったことに内心驚く。腐っても師匠腐っても義父、我ながらなんて口の利き方をするのだと思った。その原因は全てたった今消えてしまった彼女、Aにあるのだが幸か不幸か彼女はこの場に居ない。己を忘れて怒りに囚われるアレンをクロスは喉を鳴らして笑う。今は目の前の相手の行動一つ一つが煽られるように見えていた。
幼少期に長い間過ごしただけあって、義父の行動パターンは何となく読めるようになっていた。クロスがこの嫌な笑い方をする時、大抵次に罵詈雑言が飛んでくるか、意地悪なことを言うのだとアレンは分かっている。ああ来るな、と思った。その口角がニタリと持ち上がったのと同時に、少し身構える。言葉と共に拳も飛んでくるからだ。
「あのガキが大事か、アレン」
やっぱり。この人はそういう人だ、人の痛い所は抉って嬲るような悪趣味な人間だ。言い淀んだがすぐに持ち直して赤髪の神主を見つめた。
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月夜弥(プロフ) - かがりさん» はい!暑いので熱中症には気を付けてくださいね! (2018年5月19日 11時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
かがり(プロフ) - 月夜弥さん» 初めまして、暖かいコメントありがとうございます! これからもゆるりと更新しますので、しばらくお付き合い下さい! (2018年5月19日 9時) (レス) id: d3d904e778 (このIDを非表示/違反報告)
月夜弥(プロフ) - アレン君まじ尊い…天使ですか!?とっても可愛いです!このお話大好きです! (2018年5月13日 22時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かがり | 作成日時:2018年3月30日 18時