05 ページ17
アレンの話をしよう、そうAは切り出した。自分のことが分からないなら、相手のことを知りたいと思うのは至極当然のこと。蒸し暑い空気が体中を這いずり回るかのようにまとわりついた。
感覚がなくとも気配で分かる、七月に入れば日中は更に暑くなるだろう。いつか見た陽炎のように自分もゆらゆらと滲むだけの存在なる、無駄に虚しくなるから夏は嫌いだった。
――夏が来る前に夏みたいな恋をしてしまった。だからもう、夏なんていらないのに。
「……あーあ、今年も暑くなりそうだなあ」
「今の話ちゃんと聞いてました?」
「ん? ごめん聞いてなかったや」
「君が話せって言ったんでしょうが!」
額に薄らと滲んだ汗を拭いながらアレンはくわっとAに向き直る。般若のようだが彼にとってマナはそれほど大きな存在らしい。よく見れば言葉のひとつひとつに思慕や愛情が見え隠れしている。
今は亡きマナをAは少しだけ羨ましいと思ってしまった、もしもAがアレンの元から消える日が来たら彼は同じように自分を忘れないでいてくれるだろうか。
自信がない。アレンが左眼を怪我した時のように、Aが見えなくなることが怖い。存在証明をはっきりと示してくれたアレンと離れることが怖い。半透明の己の身体を抜けて淡い群青のカーテンが引かれていくのが分かった。
ゆるやかに、鮮やかに、過ぎた日々は思い出へと風化していく。止まってしまった時計の針はもう二度と進まない、生命を持つ者の針だけが刻々と過ぎているのだ。
「っていうか僕もマナを話をするのは久しぶりだな。あんまり人に話したことないから」
「さっきの、素敵な言葉だね」
「……『立ち止まるな、歩き続けろ』この言葉に何度も救われてきました。だから僕はマナへの贖罪の為に生きることを誓ったんです」
重い空気に何も言えず黙り込むと、それをぶち壊すかのように家の近くの十字路から勢いよく何かが飛び出してきた。ある意味救われたAは慌てて薄暗い道に目を凝らす。フリルとリボンの遇われたブラウスにスカート、真っ赤なランドセルまで認識してAはぎょっとした。
「――アッレーン!」
少女特有の甲高い声に耳が痛い、アレンの首に腕を回す彼女は絵面的にアウトだ。小学校高学年くらいの少女に手を出す高校生男子、笑えない冗談。これは犯罪である。
23人がお気に入り
「アニメ」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月夜弥(プロフ) - かがりさん» はい!暑いので熱中症には気を付けてくださいね! (2018年5月19日 11時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
かがり(プロフ) - 月夜弥さん» 初めまして、暖かいコメントありがとうございます! これからもゆるりと更新しますので、しばらくお付き合い下さい! (2018年5月19日 9時) (レス) id: d3d904e778 (このIDを非表示/違反報告)
月夜弥(プロフ) - アレン君まじ尊い…天使ですか!?とっても可愛いです!このお話大好きです! (2018年5月13日 22時) (レス) id: 2435ed909b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かがり | 作成日時:2018年3月30日 18時