18話＿＿‘血と肉’ ページ22
ぴょんぴょんと飛び跳ねるようにかけていったそのガキは、全体の群れに戻って本当に勇敢に戦っていた。
「赤ずきんちゃんは強いんだぞーーっ！」という謎な掛け声をしながら、道のど真ん中をガンガン突っ走るヤンキーのように走り回っていく。
あれじゃ絶対数秒で捕まるな、なんて呆れた顔で思いながら視線をガキの群れから外すと、
白石さんのすみれ色の瞳と合った。
白石さんは一度目を伏せた後、静かな水面のような微笑みでこちらを見て、また唇を動かす。
「実はね、まだ続きがあるのよ」
小さな子供には聞かせられないような話であることは、彼女のその静まりきった落ち着いた声のトーンと、雰囲気から察した。
白石さんが音もなく幽霊のように、俺の隣に腰を下ろす。
「オリジナルの『赤ずきん』は、確かに勇敢な少女が狼を欺き、家に帰るという物語だわ。
その物語の中で、赤ずきんは大きな罪を背負ってしまうの。」
「……それは？」
数秒、間があって
白石さんは俺の目をしっかりと見つめて言い切った。
「赤ずきんが、お婆さんの血と肉を食べてしまうというものよ」
一瞬言葉を失って、白石さんの言ったことを飲み込むのに時間がかかった。
「赤ずきん」が、自分と血のつながる人間である「お婆さん」の血と肉を食す……そんな物語だと、彼女は言い切った。
あの、童話として受け継がれている子供向けの小説が、である。
「お婆さんを殺害したのは狼だけれど、血と肉をお婆さんのものだとわかっていながら手にとったのは赤ずきんよ。
そう、彼女は自分の祖母を、食べているの。
狼の言うことを従って狼の信頼を先に勝ち取ったのよ。
＿＿＿＿自分が生き残るためにね。」
白石さんの瞳が、ゆらりと揺らめく。
いつもは穏やかに微笑む笑顔も、その時はひどく冷たく見えた。
その優しく暖かな声も、氷のナイフのように鋭くとがって俺に突き刺さる。
それでも、白石さんは口角をそっとあげて、
目にも微笑みを忘れずに、顔は必ず微笑んだままで言うのだ。
「赤ずきんは、人の本当の有様を描いているわ。
人間に、真っ白な人間なんていない。
いるのは、真っ黒と、黒と白の混じった灰色の人間だけよ。」
俺と、同じことを、同じ台詞をそのままに。
やはり、俺の同士だと確信せざるを得ないような、闇の灯った瞳で、そう告げるのだ。
＿＿＿＿あぁ、やっぱりアンタだった。
＿＿＿＿俺の求めていた仲間は。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミリア - 凄く気に入った作品で続きが楽しみですもし今後他の作品を作る予定があったら黒バスの黒子♀逆行かリボーンかアニメKかハイキューかワールドトリガーとコラボかトリップか転生した作品が読んで見たいです説明が下手ならすみませんこれからも更新頑張ってくださいね (2018年4月4日 16時) (
レス) id: 673ec4ec31 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - 実は書評集の方で見かけていて、気になっていたのでこの機に読めて良かったです！応援してますね！ (2017年11月20日 8時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 西谷彩香さん» わわっ！まさかの西谷さん！？本当に来てくださったんですか…！ありがとうございます！あまりお好きではないジャンルと伺ってなんだか申し訳ないです。コメントありがとうございます、頑張ります！ (2017年11月20日 4時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - こんばんは。一気に読んでしまいました…惹き込まれるのはもちろんのこと、途中に挟まれる謎の手記。あまり頭が良くないので推理は苦手で、好んで読むジャンルではないのですが何だか不思議で面白いな、と思いました。この先物語がどうなるのか、楽しみです！ (2017年11月19日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - ルルさん» ルルさんコメントありがとうございます！まさかの執着から！嬉しいです〜！執着とこちらは雰囲気も書き方もがらっと変わるのにこちらもよんでいただけて嬉しいです！！ありがとうございます！ (2017年11月4日 15時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
