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めがねをとると

君の顔がふにゃふにゃになるの





めがねをかけると

君の顔はふにゃふにゃになるね





みかんちゃん へ!


*


がしゃこんっ、と教室の空気と同じくらい重い機会音が響く。



『…』



委員会の仕事で行後に居残り、学校祭のパンフレットの製本をする私と松野くん。


1年の頃から彼を恋慕っていた私としてはこれ以上ない機会ではあったのだが、あまりに作業と恋に進歩がなく嫌気が差していた。



『…』



私の手際が悪いのと、松野くんが傍観してるだけなのが相まって、他クラスの委員は数分前に作業を終え下校したというのに私たちはまだ委員会室にいる。



「みんな帰っちったねぇ」

『そうだね』



手伝ってくれない松野くんのせいでもあるんだから。もう。




胸中でぶつぶつと小言を言いながら各クラスの出し物をまとめた紙をまとめて電動ステープラーに差し込む。


がしゃこん、がしゃこん。僅かな振動の後、揃えた紙がホチキスに綴じられた。



「んひゃ、まぶし」



後ろ向きに席に着いて、私の作業机に頬杖ついて手際の悪い作業を暫し眺めていた彼は、突然立ち上がり窓から身を乗り出して校庭を一望する。



「YOUちゃん見てみ、夕日きれーだよ」

『んも〜松野くんも手伝っ』

「いいからいいから」

『へ』



こっちに来た松野くんは、私の腕を掴んで窓際まで引っ張ってった。彼の触れた手首が火傷でもしたのかというくらいに熱をもった。



嫌がるフリをしつつ外を見れば、藤色の雲と熟れた林檎みたいな色をした幻想的な空が一気に視界を満たして、言葉がでなくなる。



「ね、きれーっしょ」

『確かに、きれい、うん』

「いんすた映え?ってやつね」

『っ、』



続いて視界に飛び込んだふふんと自慢気な松野くんのドアップに胸がぎゅんっとして、完全にキャパオーバーで、



思わず俯くと掛けていた眼鏡がすこんっと床に落ちた。



『っあ』



視力が0.0なんとかの域に達している私の裸眼は落ちた眼鏡を映そうとはせず、広がるただただ境目の分からないぼやぼやに焦る。


屈んで床に手を這わせてそれらしき物がないか探すも見当たらない。



「んぶっ、YOUちゃん何してんの」

『眼鏡が…や、なに笑ってるの』

「くふふっ、だって眼鏡こっちだもん」



笑いを堪えようとしない松野くん。寧ろ腹を抱えて大爆笑。


そりゃ端から見ればさぞ滑稽なのだろうけど、私にとっては死活問題なのだ。



「そんなに目ぇわるいの」

『わるいの!』

「YOUちゃんの意外な弱点発見伝」

『何それ』



ぼやぼやした色でしか判断できないなかでも彼が眼鏡を拾ったのは分かった。



「おれの顔みえる?」

『ふにゃふにゃ』

「どこなら見える?」

『えー…』



目を細めようとすれば「あー細めちゃダメ〜」と釘を刺された。



「顔近づけて、ほらほら」

『…』



一歩一歩、松野くんに歩み寄る度にどきどきがうるさくなる。



そろそろと顔を近づけて彼の顔がはっきり見えるあたりで『このへん』と無愛想に言えば、松野くんの大きな手で両頬をがっ、と固定された。



きらきら、夕焼け色をした彼の瞳が私の本心を見透かしてるみたいで少し怖くなった。



「YOUちゃんったらだいた〜ん♡チューできちゃいそう」


『いやいやいや何言ってんの』



彼の胸板を押して離れると「ちぇっ」と母性を刺激するような拗ね方をする。



さっさと作業して帰ろう。私にはもうじゅうぶん。



席に着いてまた紙をまとめて機械に差し込もうとしたが視界がぼやけてて上手くできない。



『松野くん、めがね』

「そんな見えないの?」

『みえないの!』



立ち上がって眼鏡を持つ松野くんの手に手を伸ばすも、彼はひらりと躱して私の眼鏡をかけた。






「なはは、ほんとだ、YOUちゃんふにゃふにゃ」



へらへらおかしそうに笑って、「目ぇわるいって大変ねぇ」と漸く返してくれた。さっと掛けて作業に戻る。



「YOUちゃんマジメ〜」

『松野くんだって早く帰りたいでしょ』

「ん?べつに?」



今度は机に腰掛けて、出来上がったパンフレットをぱらぱらと見ている。それも飽きたのか、元の場所に返して、今度は私の隣の席に座った。



『私だって、部活あるし』

「あー、吹奏楽?だっけ。らっぱ吹くの?」

『らっぱではないけど』


「おれ口笛ちょーうまいからさ、入れてくんねぇかな〜」



ぴゅうぴゅうと彼は口笛でバラエティ番組のオープニングを吹いた。確かにうまい。ちょーうまい。



所々外れた音がなんとも松野くんらしい。



「ね、うまいでしょ〜」

『今のはふつーにすごい、かも』

「いや、かもって何よ」

『上手上手』

「うわっテキトー」



松野くんの口笛姿が、ちょんっと尖った唇が、なぜだかちょっとやらしくて恥ずかしくなってしまって、目を合わさないように製本に集中した。よって相槌も適当になる。



「おれへの態度冷たくなーい?」

『そんなことないよ』

「委員会手伝わないから?」

『それはある』

「あるんかーい」



「たはーっ」と脱力し机に突っ伏して、「ねぇねぇYOUちゃん」とあまい蕩けた声で私を呼び、眼鏡の縁を指先でつんつんつつく。







「おれ、YOUちゃんのことすきだよ」




『は?』



驚き呆れて松野くんを見たら「きゃーっ言っちゃった♡」と女の子みたいにひとりではしゃいでる。


ちょっと信じられそうにない。




『……嘘くさい…』


「いや嘘くさいって待って!?おれちょー本気だよ!?ちょう!ほん!き!」



慌てて私の手を握ってぶんぶん振って「この委員なったのもYOUちゃんいたからだし、センセの話聴いてなかったのもYOUちゃんから聴きたかったからだし!手伝わなかったのも、夕日見たのも、ちょっとでも長くいられたら嬉しいな〜って……」と壮大なネタバレをでっかい声で言う。



「もぉ〜〜なんで気付かないの!」


『いや教室でかわいくておっ ぱいおっきい子が好みって叫んでたじゃん』


「すきと好みは違うんだよぉ」




「ばかぁ〜〜」と泣くフリして然り気無く私に抱き着いたので、照れ隠しに『女子か』とべりりっと剥がした。



「YOUちゃんおれのこと好きじゃない?」



顔を下から覗き込まれてどきっとする。
喉の奥がきゅっと締まって呼吸が止まったかのような錯覚。



『それは、』


「じゃあもっかい言わせて」


『へ』



まだ続くのかと顔を上げれば、むつごの長男を彷彿とさせる、いつになく真剣な格好いい表情。



そんな顔今まで一度もしたことなかったじゃん。ずるい。ばか。









「おれ、YOUちゃんが」



『まって、むり』




眼鏡を掛けてるはずなのに視界がふにゃふにゃ歪んで、松野くんが今、どんな顔をしてるのかわかんない。





わかんない、むり、もう限界



「むり〜〜〜…」


「え、ちょ、泣かないでよぉ」



子供みたく泣きじゃくる私に松野くんはびっくりして、慌てて起立して学ランのポケット漁って、出てきた給食のミルメークに肩落として




「も〜〜…泣くなよ」



強引に私の肩を引いて、眼鏡をとって、埃で少し白っぽくなった袖でごしごし涙を拭った。ちょっとじんじんする目のまわり。



「嫌なら嫌でいいよ?他の奴が好きなら正直したくないけど出血大サービスで応援する」


『ちがっ、い、いやじゃない…から…』

「え、いやじゃない?」

『うん、いやじゃない』



ずずっと鼻をすするとちょっと埃っぽくて、鼻の奥がツーンとして、またちょっぴり涙が滲んだ。




「…おそ松くんすきって言うまで信じない」

『え〜わがまま…』


「いーじゃんワガママ!YOUちゃんこういうときじゃないと言ってくれそうにないし!」



調子に乗りおって…と軽く睨むと「さっきまでべそべそ泣いてたくせに」と頬を摘まれた。



『う、うるさい』

「そーだよおれうるさいよ?」

『う……』



言い返せない私を見てけらけら笑って「あーYOUちゃんだいすき」とこの男は恥ずかしいことをすんなり口にする。



『お、』

「おっ?」



『遅くなったしさっさと作業してかえろ…』

「えーなにそれ期待した!」



隣の席に乱暴に腰掛けてぶーぶー文句を垂れる松野くん。空き教室の机に下品な落書きを始めるものだから慌てて止めた。



『あ〜…もう部活も終わっちゃうしさ、作業したら一緒に帰ろうよ』


「えっ帰る、ちょー帰る!」



変わり身の速さに驚くばかりだけど、途端ににこにこ全くしてこなかった作業をし始めるのを見るとやっぱりちょっと嬉しくて口許が緩む。



「ちょっとぉYOUちゃん手ぇ動いてないよ」

『あ、ごめんね』






"おそ松くんすき"は帰りに言おうかな





…Dear みかんちゃん


高校合格おめでとう!


いっぱい悩んで努力してる姿を見ていたから、素敵な報告を聴けて安心したし自分のこと以上にうれしいし喜んでます。やったね。


環境ががらりと変わって大変だろうけど無理はしすぎないでね!相談乗るし応援してます。お祝いの学生長男受けとってくださいな。


本当にほんとにおめでとう。


From 黒糖団子…



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なつみかん(プロフ) - 長々と失礼しました(・・;) (2018年2月6日 1時) (レス) id: 29ab7b3f96 (このIDを非表示/違反報告)
なつみかん(プロフ) - 相談乗ってもらったり、励ましてくれたり、おそにい書いてくれたり…たくさんたくさん感謝してます。わたしもその感謝を返せるように頑張ります…!黒糖ちゃんもわたしなんかでよければ話し相手にでもなりますので…!本当に本当にありがとう!だいだいだいすきです!! (2018年2月6日 1時) (レス) id: 29ab7b3f96 (このIDを非表示/違反報告)
なつみかん(プロフ) - 黒糖ちゃんのおそにい本当に好きです…かわいい…設定も吹奏楽とかわたしでうれしい(;ω;)黒糖ちゃんに書いてもらえてわたしは幸せ者だなあってつくづく思いますありがとう………!! (2018年2月6日 1時) (レス) id: 29ab7b3f96 (このIDを非表示/違反報告)
なつみかん(プロフ) - 黒糖ちゃんんん!!本当にありがとう…!!大好きな黒糖ちゃんのおそにいうれしすぎます……普段からいっぱいいっぱいお世話になってるのに、おそにい書いてもらえて、本当にありがとう…!うれしすぎてうまく言葉が見つかりません(;_;) (2018年2月6日 1時) (レス) id: 29ab7b3f96 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒糖団子 | 作成日時:2018年2月5日 22時

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