【文スト･さんこいち】海へ行こうよ

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CSS これはまだ、ポートマフィアに双黒と呼ばれる悪魔が居た時、安吾がマフィアだった時、そして、織田作が生きていた時のお話。

cssは郁さんからお借りしました。いつも有り難う御座います。

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　僕は神様や仏様を信じたことがなかった。神様が居るのであればこの世から戦争なんてものはとっくの昔に跡形もなくなくなっていて、出会うのは精々教科書の中や資料館に飾られている資料の中ぐらいの筈だし、仏様が居るのであればこの世から欲のある人間は一人も生まれず、皆慎ましく生活している筈だ。

　この前、いつもの通り三人でお酒を飲んでいる時、太宰君が云っていた。
　「神様？　仏様？　そんな恐ろしい輩が居たら、今頃人間は一人も生き残っていなかったろうね。人間は偉いよ。キチったそいつ等の云うことに聞く耳を持たなかったのは正解だ」
と。

　その時は僕も織田作さんも太宰君の珍しい正論に只々頷き合い、議論を深めていたが、今はそんな太宰君の正論より居るか居ないか判らない神様に一つ、願いを叶えてもらいたい。
　例え人類が滅亡しようと構わない。誰か、誰か太宰君と織田作さんを止めてください！

　これは、数時間前に遡る。

　「ねえ二人とも。君達は今年、何か夏らしいことはしたかい？」

　太宰君の突拍子もない質問にはもう慣れっこで、僕らはあまり深く考えず聞かれた通りのことを答えた。
　僕らのような裏社会の人間に夏らしい夏、即ち太宰君の質問の真理である「君達、夏休み如何過ごしたの？」　というの呑気な、太宰君が欲しがっている答えを出すことなど不可能で、太宰君は僕らの答えを聞いた後予想通りの反応をした。

　十八歳の少年が頬を膨らまして拗ねたのである。バーでお酒を飲まず、蟹缶ばかり開けながら拗ねたのである。

　「いや、君が欲している答えは僕らでは如何足掻いても無理でしょう。出るわけないじゃないですか」

　ふぅっとため息を吐きながら眼鏡を人差し指で上げた。
　これは僕が呆れた時に出る癖らしく、先日さらりと太宰君に指摘された。それまでは全く気づかなかったし誰も教えてくれなかった。

　「そうだぞ太宰。そんなことを訊く太宰は如何なんだ？　夏休みはあったのか？」

　太宰君はカウンターに頬を埋め、「真逆」と前置きをしてから「私はこう見えても幹部だよ？　スケジュールを無理矢理ずらして夏休みを一週間、いや、一ヶ月造ることなんて造作もないさ」といい放った。

　「太宰君、君って奴は、周りの人達がブラックな仕事量に魂を削っている時になんてことを……」

　「いやぁ仕事で苦しんでいる皆の顔を見るのは楽しかったよ」

　「鬼ですか貴方は……」

　「まあ安吾、たまには許してやったら如何だ？　太宰も日頃から幹部として疲れているんだろう」

　屈託のない純粋な目でもって僕のコッリコリの肩に手を置く織田作さん。

　「流石織田作！　良いこと云うー」

　「織田作さん……」

　僕は再びため息を吐いた。双方頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら丸っこい目を僕に向ける。太宰君に限っては少年らしい紅い唇を少しばかり突き出して、本当に分からないと言ったような顔をした。
　暫くお互い無言の時間が流れていると、いきなり太宰君の特技思いつきが僕達を襲った。

　「そうだ！　皆で海にいかない？」

　「私って天才だよね」と言わんばかりの笑顔で僕達を見た。ワンテンポ遅れて織田作さんが「いいな」と同意する。

　「ちょっとちょっと、待ってくださいよ！」

　「ん？　如何したんだ安吾」

　「如何したもこうしたもありませんよ。海って、今秋ですよ？」

　「うん、そうだね」

　「そうだねじゃないですって。何でこんな時期に行くんですか？　そもそも、僕達は太宰君と違って暇じゃないので休暇なんて取れませんよ」

　「なぁんだ、そんなことを気にしていたのかい安吾。安心したまえよ、そこは私から首領にお願いしたに決まっているだだろう？」

　「と、言うことは……」

　サーっと血の気が引いていく。用意された悪魔の解答はなんなのかと生唾を飲み込んだ。にこにこと嬉しそうに笑う太宰君の唇から放たれる宣告は、死刑だった。

　「仕事のことは心配ない。今から行くよ、安吾」

　パチンっと太宰君が指を鳴らすとそれが合図だったのか、後ろから織田作さんに抱えられ抵抗も虚しく僕は彼らと海へ行った。

　そして、今に至る。

　「いやー気持ちいいねぇ織田作。ね、安吾」

　グイッと背筋を伸ばしながら態とらしく僕を振り返る太宰君。そんな太宰君に僕は眼鏡を上げながら悪態をつく。

　「僕は帰った後のことのことを考えると、血の気が引きますよ」

　「まだ仕事が残っていたのか？」何の用意なのかズボンの裾を捲り始める織田作さん。太宰君も「お、織田作察しがいいねぇ」と上機嫌で云って裾を捲る。

　知りたいような知りたくないような、いや、僕のメンタルの為にも知らないでおこう。

　そのまま二人は海に入り、水の掛け合いっこをし始める。僕は濡れたくないので太宰君達からのしつこいお誘いは断り、遠目で彼らを観察した。

　今日の報告も、幹部と構成員が仲良く仕事をほっぽり投げ、秋の海で遊んでいました、になるのか。最近こんな報告ばかり多い気がする。
　ちらちらと態とらしく僕に目線を送ってくる二人。「ほらほら、楽しそうだろう？」「一緒に遊ばないか？」とでも云いたそうな目だ。

　「僕は絶対遊びませんよー！」

　誰に云うでもなくそう宣言すると、今度はジリジリと近寄ってくる。誰かさんの忘れ物であろうバケツに海水を一杯にいれて。

　「一寸太宰君織田作さん！　これ仕事着なので絶対にかけないでくださいね！　一張羅なんですからね！」

　「ふっふっふっふっ、観念したまえ安吾ぉ。これは逃れられぬ運命なのだよ」

　「信じません！　そんな下らない運命なんて信じません！」

　「安吾、幹部からの命令だぞ」

　「織田作さんは何を云い出すんですか！　太宰君もその通り！　みたいな顔をしないでください！」

　え、怖い怖い怖い怖い。下手な拷ｰ問より怖いですってこれ。

　「隙あり！」

　「ブフッ！」

　太宰君の掛け声と共に左右両方から海水が雪崩のように僕を襲った。突然のことで異能も防御も出来なかった僕は、塩辛い海水を大量に飲み込んでしまった。

　「うげぼっ、げほ、げほっはー……」

　「大丈夫かい安吾？　鈍臭いねぇ」

　「だ、大丈夫か？　死んでないか？」

　「げぼっ、大丈夫ですよ。勝手に殺さないでください。ですが二人とも、僕は止めてくださいと云いましたよね？　貴方達のお陰で一張羅が台無しですよ。貴方達には、それ相応の報復を受けてもらいますからね！」

　もうそこからは混沌(カオス)の一言で、成人済みの大人二人と十八の子供一人との醜い海水の掛け合い合戦。あらゆる汚い方法を用いて相手を容赦なく濡らす。

　「ちょ、織田作さん、どこからそんな大きい水鉄砲取り出したんですか！」

　「落ちてた」

　「落ちてた！」

　「あ、それいいなぁ、私もー」

　「太宰君も止めてください。それ忘れ物ですよ」

　恐ろしい視力で遠くの忘れ物を吟味する二人。

　「安吾は視力が悪いから、特別に私が選んであげよう！　どれにしようかなー」

　僕が再び反論しようとすると織田作さんが僕の肩をぽんっと叩き、僕を意味ありげに見つめる。その眼力に負け、僕は溜め息を吐いた。

　「分かりました。太宰君、下手なのは選ばないでくださいね」

　僕の一言に待ってました！　と云わんばかりの笑顔で織田作さんのより大きく性能がよさそうな水鉄砲を取り出す太宰君。

　「さあ！　私達の夏を取り戻そうじゃないか！」

　太宰君の掛け声と共に、僕らは水鉄砲を構えた。

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