検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:229 hit
そう考えていると、玄関の扉が開く音がした。おじさんが帰ってきたんだ。

「おかえり」

玄関まで出迎えて声をかける。その言葉におじさんは何も答えず口を開いた。

「終わったんならずらかるぞ、日が昇る前にこの部屋埃一つない状態にしろ死体も持ってく特に髪の毛は絶対に残すな、良いか」

目が本気なところ、本当にこの部屋から逃げるらしい。でも僕、明日橋本の家に…

「どうした早くしろ」
「っ、うん…」

それから僕と東郷さんの行動は早かった。掃除が終わったら、僕が殺した三人を軽トラの荷台に放り投げて、車のエンジンをかける。時刻は深夜の二時半。

「っねぇおじさん、ちょっと行きたい所があるんだけど…」

殴られる覚悟で話しかけて身構えると予想外の返答がきた。

「……十五分待ってやる」

僕は顔をパッと上げて走り出す。右手に紙切れを一枚携えて。ある一軒家に走り出す。息が切れ始めて呼吸が浅くなる。あれ、僕なんでこんなに必死になってるんだろう、たかが一人の女の子に、なんで。そんなことを薄い意識の中で考えたってなんにもならない。なんにもならないけど、僕の頭の中には今向かっている家の女の子、橋本のことしかなかった。おじさんがずらかるって言うのは多分、もう学校には行けないってことなんだろう。もう学校に行けないってことは、もう橋本とは会えないんだ。涙が目の端からポロポロ溢れる、それでも僕は必死に足を動かした。

着いた頃にはもう息が絶え絶えで、帰りの分のスタミナ残しておけば良かったって思ったのは、その紙切れを橋本の家の郵便受けに入れた後だった。体内時計が合っていればあと十分か九分は時間があるはずだ。さっきは興奮してたから走ってしまったのかもしれない。おじさんは歩いて往復出来る時間を設定してくれていたのだ。

「…歩いて帰ろう」

多分これからまたとおいところに行くんだろう。子供だって、少しは干渉に浸りたいんだ。ぼーっとしながら歩く住宅街、いる時間が少なかったために思い出なんか無に等しいが、自分が住んでたアパートから橋本が住んでる一軒家の間は、よく橋本と歩いていた。思い出なんかそれで十分だ。

しばらく歩いておじさんの元に帰ってきた。おじさんは軽トラの扉に寄りかかってタバコを吸ってたけど、僕がきた瞬間吸うのをやめて火を消し、僕に呼びかける。

「おそ松、いこう」

ああなんだろう、なんだがとても安心する。おかしいと思う。自分を誘拐した人の声を聞いて安心するなんて。それでも僕は深く考えず、「うん」と返して助手席に乗り込んだ。

これが、十月二十日午前二時五十分、僕が十二歳の時の出来事だった。





十月二十日午前一時、俺は懐かしい場所の警察署の前にいる。二十七歳になって、十五年前にしたことがとても昔のことのように思える。というか、細かく言えばあと一時間と五十分で十五年経つんだけど。

なぜ俺がこんな所にいるのかと言えば、それは自首するためだ。あと一時間五十分逃げ切れればもう開放されるのに、なんでわざわざ自首しようなどと思うのか、自分でもよく分からなかったけど、多分これだろうなって理由は一つあって、それは俺がずっと一緒にいたおじさんが死んだからだと感じてる。

俺は意を決して警察署の中へ足を踏み込んだ。





昨日…というか今日の午前一時十分、警察署は大騒ぎだった。なんと、残り二時間ほどで時効を迎えてしまう殺人事件の犯人が自首してきたからだ。突然のことに警察署は大荒れ、犯人は年配の親父とかだと思っていたのに、当時小学生だった若者がやっていたり、十年前に見つかった山奥に捨てられた死体が当時殺された少年達のものだったりと、真相が明らかになった。

俺はこの警察署での仕事は長いが、まさか犯人が自首してくるとは思わなかった。今は休憩がてら警察署の前の階段に腰掛けてコーヒーを飲んでいるところだ。休憩が終わったらまた色々と仕事が残っている。眠れない。

重たい腰を持ち上げのろのろと立ち上がる。足を進めようとしたら、二人の男女に声をかけられた。何か近所で問題でもあったのだろうか、今忙しいんだから交番の場所でも案内するか。

「お忙しいところすみません…あの、十五年前の事件のことなんですけれども…」

白いパーカーのフードを被ったピンク色の髪の毛をした女がやけに引っかかる事を言ってきた。隣にいる緑色のチェックの服を着た男はどこか不安げな顔をしている。犯人の顔にやたらと顔が似ていた。俺は直感だが、この二人の話を聞かなければいけないように思った。

「ああ、その話か、なんだい?」

女は気まずそうに口をまごまごと動かして、話し始める。

「遅松の話、聞いたなら分かるかもしれないのですが…」

今速報で地上波に流れているこの事件の内容は「十五年前の事件の犯人が自首した」ということだけだ。名前も何の真相も流していない。なのにこの女が「遅松」と名前を出したということは、関係者なのだろう。

「遅松の話に、女の子は、出てきませんでしたか…?」

これ以上の話は外でしてはいけない気がした俺は、その言葉を無視して二人を警察署の中へ招き入れるように促した。

「その事件の関係者なら、中に入れて話を聞くよ、何をしにここに来た?犯人との関係は?」

周りに誰もいないからこんなことを聞けたが、まあ一応確認のために、いつもはこんなことできない。

「私は、遅松と十ヶ月だけ一緒に学校に行っていた橋本という者です、彼と私の十ヶ月中の話をしに来ました」
「僕はおそ松の弟です。おそ松が誘拐される前の十一年間の話をしにきました」

男の発言がやけに気になった。誘拐、という言葉は本人から聞いていない。俺は内心戸惑いながらも、二人を中に案内した。





「……つまり、松野おそ松は東郷という男に誘拐され、その先で出会った橋本レイカという少女に恋をし、橋本の可愛がっていた猫を殺したクラスメイトを懲らしめるために殺した…と」

二人の話を冷静に分析してまとめるとこんな感じだ。もうよく分からなくなってきた。本人から聞いた話じゃ「好きだった女の子が可愛がってた猫が殺されたからその犯人をあぶり出して殺した」って言ってたからな…

東郷遅松は偽名であり、真名が松野おそ松。その事実は初めて知った。一人で頭を悩ませている俺だったが、そういえばこの二人はもう帰らせてもいいんだった。帰りに案内しようと、口を開く。それよりも先に、女の口が開く方が早かった。

「遅松には、会えないんですか」

どうやら女は犯人に会いたいらしい。まあ本人が面会を謝絶しなければ会えないことはないだろう。

「話をしたいんです、遅松と、納得いかないことを散々されたんですから」
「…わかった、その案内は他のやつに頼もう。この部屋の外に人がいるからその人にお願いしてくれないかい」
「分かりました、ああそれと…」

鞄の中をガサゴソといじり出した女を見つめる。フードと前髪でよく見えないからハッキリ言えないが確かによく整った顔をしている。これは犯人が惚れる理由も分かる。

女は鞄から一切れの紙を取り出して俺に差し出した。

「これ…当時の遅松から私に送られた最初で最後の手紙のようなものです。では、今日はありがとうございました。チョロ松さん行こう」
「あ、うん…」

俺が見る間もなく女は振り返って部屋から出ていく。男もそれに着いていくように慌てて出て行った。

机の上に残された紙切れには、手紙というにはあまりに短い内容が綴られていた。

『はし本へ

安心して、ネコをころしたアイツらをこらしめたよ

おそ松より』

ホムペを作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1 票)

このホムペをお気に入り追加 登録すれば後で更新された順に見れます
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような占いを簡単に作れます → 作成

作成日時:2017年2月5日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。