【おそ松さん】一方通行の思い【日替わり】

6種類の結果パターン

今日の松 - 2024年5月7日

「どうして俺の気持ちをわかってくれないんだ！！」

台本を片手に大声を張り上げるカラ松君｡

「ちょっと！動かないで」

「あっ､す､すまん」

練習は結構だが今は衣装合わせ中｡動かれると手元が狂う｡

演劇部の衣装所属の私は今回はカラ松君の衣装担当｡仮縫いした衣装を本人に着せるとサイズはぴったり｡

「…カラ松君本当舞台映えするね」

鍛えた体に衣装がよく映える｡ここにカラ松君の演技力が加算されたらたちまち観客の心を掴むだろう｡

「さすがYOUだな！ぴったりだ！」

「そうね｡本縫いするから脱いで」

「もう少しいいか？折角だから着たまま演技してみたい」

多少ならいいだろう｡頷くとカラ松君は満面の笑みを浮かべた｡

見ていてくれ､と言ってカラ松君は台本を置く｡顔を上げた彼は役者の顔になっていて､かっこいいなぁ､なんて思う｡

「君が好きなんだ」

どきっとした｡真っ直ぐに私を見てくる眼差しが心拍を加速させる｡

伸びてきた腕が私の背後の壁を叩く｡私をヒロインに見立てているらしい｡顔が近い､と思ったら抱き寄せられる｡

耳元で紡がれていくセリフ｡それが劇のセリフだってわかっているのにときめく｡

だって私はずっと彼が好きだったんだ｡誰に誉められても自分が納得するまでひたすらに練習する彼をずっと側で見ていた｡

誰よりも真っ直ぐで真面目で､とっても優しい人｡私が彼への思いを抱いたのはずっと前｡

でも彼が好きなのは役者の女の子｡可愛くて､演技が上手な優しい子｡気の強い可愛いげのない私と正反対｡

言い出せなくて､言ったところで､なんて思ってついに伝えることを諦めた拗らせた片想い｡そんな思いを抱いた私に､この仕打ちは拷問だ｡

「好きだ｡誰よりも｡俺の側にいてくれ」

高鳴った胸の音が､どうか聞こえませんように｡ぐっと胸を押さえて願う｡

「どうだ？」

ぱっと体が離される｡急いで距離をとる｡

「私っ､役者じゃないからわかんない」

「だからいいんだ｡観客視点の感想が聞きたい」

「いいんじゃない？」

この胸の高鳴りが答えだろう｡素直に告げれば､カラ松君は嬉しそうに笑った｡

「やっぱり衣装を着ると違うな！君の衣装は格別だ」

そう言ってカラ松君は衣装を置いて舞台に向かった｡残された私は､壁伝いに座り込む｡

「うっ…っく…」

涙が流れた｡どうして､そんな期待させるようなことを言うの｡やめてよ｡諦めたのに｡

伝えることを諦めた思いがまた一つ､人知れずに転がった｡

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