囲われたミツと花【前編】

22 K ページ22

玉ちゃんは、静かに聞いてくれた。
すべてを聞き終わったら、話し終えた俺の髪をくしゃっと撫でて、「辛かったね」と玉ちゃんまで苦しそうな顔をして、励ましてくれた。



「…こんなに可愛いミツがイジめに合うなんて、ちょっと信じられないけど」
「…何かカンに触ったんだろうな。俺結構思ったことズバズバ言っちゃうとこあるし」
「ふーん？」



玉ちゃんは聞き終えた後、すれ違う人が男性の時は自然と守るように、そっち側へと移動してくれていた。
その繊細な優しさに気付くと、胸がぎゅっと苦しくなる。



「今は、恋人の太輔に全て面倒見てもらってる」



その事には、あまり賛成できないな、と玉ちゃんは唯一苦言を呈した。



「ねーミツ、ウチでバイトしない？預かってる子達の散歩係に任命します！」
「え？！」
「少しずつ外に出るリハビリにね？」



外に出た方がいいと言う玉ちゃん。
その屈託ない明るさに導かれるかのように、
俺も外を求め始めていた。



「太輔に聞いてみる、」
「んー、まずは、秘密に、さ？どうかな？驚かせない？」
「驚かす…？」
「うん。なんだかんだ社会復帰したミツを恋人も喜ぶんじゃないかな？」
「サプライズ、的な？」
「ま、そんなとこ」



そっか、そうだよな。
前もって外に出ると言えば、きっと心配する。
心配をかけて迷惑をかけるのは、気が引ける。
ここは玉ちゃんの言う通りサプライズもありかもしれない。



「…でも、玉ちゃん...初対面に近い俺にどうしてそこまで良くしてくれるの？」
「…うん。守ってあげたいから、かな。救ってあげたい。引き上げてあげたい」
「……？」
「今は、分からなくていいよ。ちょうど人手不足だったんだ。助かるよ〜」



…守ってあげたい、それはよく太輔に言われる事だった。太輔は守ってあげたいから、ウチに居ていいと言ってくれる。でも、玉ちゃんは守ってあげたいから、外に出ろと言う。



守るって、なんだろう。
…ひとつ分かるのは、俺は誰かに守られないと生きていけないほど弱いということだ。
この歳の成人男性が、だ。



「一日でも早くお役に立てるよう頑張ります！社会人経験は、ありませんが！本やドラマで働く事についてはふわりと心得てます…！」
「へぇ〜心強いわ」



ピシッと頭を下げ腰を曲げてお辞儀をすると、玉ちゃんの温かい笑い声が聞こえた。馬鹿にした笑い声じゃない。あの頃とは、違う。





玉ちゃんのお陰でその日から俺は、
外の世界を知ったんだ─────……

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