呪術廻戦〜貳爪探し〜

いらない存在 ページ9

"…どうせなら由梨みたいに死んでくれれば良かったのに"

その言葉が耳に届いた時､私の中にどうしようもない殺意が溢れ出した

…気づいた時には､私の拳は彼女の憎たらしい横っ面
に浴びせられていた

其奴の制服の襟を掴み､何度も､何度も､何度も何度も何度も殴り続ける

取り巻き共は唖然と見つめるだけだ

その内の1人がハッとしたように我に返った

"ちょ…ちょっと､誰か先生呼んできてッ"

"う､うん！"



…コレが今日の出来事だ

教師に腕を掴まれ､怒鳴られ…私はそれを振りきって逃げてきた

きっと母にも連絡はされているだろう

…"彼奴"が母と呼べるのかどうかも怪しいけれど

マンションの玄関ホールを抜け､階段を上がる

私の自宅はあるマンションの一室

鍵はいつも掛かっていない

仕事を辞めた母が普段家にいるので掛ける必要もないのだ

『ただいまー…』

…返事はない いつも通りだ

プルルルル…プルルルルル…

『ちょっと母さん､電話鳴ってるよ』

靴を脱ぎながら､電気さえ付いていないリビングに向かって声を掛ける

コレは大分怒ってるな

サッサと謝っておいた方がいいだろう

Aはリビングの扉を開けた

『はぁ…ごめんって あ､今日は買い物行けなかったからさ 晩御飯は適当に…』

リビングの様子を見て､私は言葉を失った

母は勿論そこにいた

唯…足は宙に浮き､ブラブラと僅かに揺れている

吊り下げ式の電灯は母の重さに耐えきれず､ギシギシと唸っていた

そう…母は首を吊って死んでいた

『…』

Aはリビングに入り､母の死体を眺める

いづれこうなるだろうとは思っていた

…やっと､か

由梨が死んだ時のような悲しみという感情は既に死んでいた


"なんでアンタばっかり幸せになるの…？"

目の前の母が､私にそう告げた気がした

父に逃げられ､夜の店も辞め､家事もせず酒に入り浸る日々

虐待こそ無けれど､Aへの罵詈雑言は日に日に増していった

その日々の年数…凡そ10数年

幼少期から吐き出され続けていた暴言

Aの心が壊れなかったのは奇跡とも言えるだろう

プルルルル…プルルルル…

執拗い電話

何処からの電話なのかは僅かながら察していた

受話器を手に取り､耳元に当てる

『はい 紅莇です』

«あぁやっと出た えーっと…またお前か 今親御さんはいるか？いるなら変わって欲しいんだけど»

聞き慣れた教師の声も､電話越しだと違った声に聞こえる

私は何も返事をせず､そのままガチャりと受話器を下ろした

親の形→←腐敗

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す