上薬 ページ28
今日のAちゃんの仕事ぶりはえげつない。しゃかりきになって働いているというか、馬車馬のようといいますか。記事のデータを送っては、また新しい記事の執筆をして、また送って、の繰り返しである。
何度か話しかけたが「あとで」と一喝された。
「...マジモードですね」
「どうしたんだろね」
こうちゃんがヒソヒソと若干引きながら言ってくる程である。
「あぁぁぁ!!ニコチン切れそう!ちょっと吸ってきます!!ってか、吸いながらベランダで作業していいですか?!ふくらさん?!」
「いやいや、やめて?」
「はーい。じゃ!ちゃっちゃっと吸ってきます!!」
「うん、そうしてください」
煙草を咥えてジッポを構えてベランダに出た彼女は、喫煙中すらも携帯電話で通話しており、忙しそうである。
「…ふくらさん!今日のAちゃんどうしたんですか?」
「んー、なんか本業が立て込むらしいよー」
「大変だなぁ」
「ねー」
さて、僕もやりますかね。
同時にAちゃんがベランダから副流煙を纏って戻ってきた。
そして、少し遅れて玄関が開く。どうやら社長のご出勤らしい。
「おつかれさまでーす」
「お疲れ様です」
「ありがとう。みんなもお疲れ様です」
伊沢さんは荷物を置いてパソコンを起動させ、ジャケットをハンガーにかける。ここまでは何ら変わらない。
それから、ポットに沸いていたお湯を入れてインスタントコーヒーを自身で作っている。それも別に何ら普遍的だ。
ん?マグカップ変わってる?あまりみたことないデザインだ。
こちらの視線に気づいたのかコーヒーの粉を入れていたティースプーンが止まってこちらをみた。
「どうした?須貝さん」
「いや、マグカップそれでした?」
「あぁ、最近変えたんだよ。前のが欠けちゃってね。上薬だよ。なかなか綺麗なデザインで気に入ってるんだよね」
「いいですね」
「…だろう?」
きっと、Aちゃんから買ったんだと思った。
あーー、これは何だ。2人は。
くそぅ、なんか鬱屈とまではいかないがそんな気分だ。
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作者名:モスモス | 作成日時:2020年4月13日 0時