”――”の歌い手さんは【番外編】

＃　＊＊ ページ9

『彼らを裏切ったわけじゃない。けど、言わない方がいいと思う。だって、皆、”そんなことない”
って言うから。そんなこと、言われたら、帰って来たくなっちゃうでしょ？』


無理に笑顔を作ってるんだ、と私でもわかった。
彼女の中で、考えて、考えて、考えた末に出した、答えがこれ。
じゃあ、私が言うことは……。


「私から彼らに説明してもいい？」


彼女が、言わないというのなら、私が意地でも言ってやる。
言って、皆で水無月を待ってやる。


「それで……いつ、帰ってくるつもりなの？」


期間未定。
それが彼女の出した答えなら、せめて、詳しいところまで、知っていたい。
いつまで、活動を休止するのか。


『分からない。……もう帰ってこないかもしれないし、一か月後、ひょっこり、帰ってきてるかも』


今度は、いつもの笑顔を見せてきたので、彼女が言っていることが嘘ではないことが確かになった。
そっか、私が呟くと、A、えーっと、と気まずそうに私と目を反らし始める。


「なに」


『え、いやー、その……』


「もう、別にいいよ。何も隠さないで」


『あー、じゃあ』


彼女は、がさごそと鞄の中を漁った後、私に一枚のチケットを差し出して、

『この後、ロンドンにフライトなんだけどお……？』

と申し訳なさそうに口にした。

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